第34話『暗転』

 毎日毎日取り調べ。よく飽きもせずに同じような質問ばかり繰り返すもんだ。

 どうせアマテラスが私のことも、やり取りしていた活動グループについても全部調べ上げたんでしょ?今更何を話せっていうのよ?時間の無駄でしかない。

 取調室と留置場を行き来する毎日。心底ウンザリする。

 ようやく弁護士を呼んでくれたと思ったら鮫島さんじゃないし、罪状的に実刑を覚悟した方がいいとか言われるし、最悪なんだけど。

 私の人生で最大の失敗。何かもう、全てがどうでもいい。何もやる気が起きない。過去一モチベ下がり切っている。



 留置場の簡素なベッドは寝心地悪い。鉄格子付きの別荘だなんて低レベルな冗談はいらないから、今はとにかく安眠できるベッドが欲しい。

 何か疲れた……。お先真っ暗だし絶望しかない。現状を好転させられる手段が無いし、考えを巡らせるのも無駄に思える。何でこんなことになっちゃったんだろう……?

 今はただ、眠るしかない。他にやること無いし。今何時かも分からないけど、メンドクサイことが続いて疲れている。

 明日に備えて休息を……ってのも馬鹿らしいけど、今は寝るしかない。どうせまた、明日も朝から取り調べなんだろう……。



 誰かに名前を呼ばれた。警察の人じゃない。どこかで聞いたことがある声……。


『あなたは現状に満足しているのかしら?』


 ふざけないでもらいたい。こんな状況に満足する訳がない。


『全てはあなたが選択した結果でしょう?不満があるのかしら?』


 私が選択した結果……?まぁ、私の行動は全て私が選択している。だからといって、満足できる結果は導き出せていない。現状、不満しかない。


『不満なのね。それじゃあ、特別にチャンスをあげる。次こそは、後悔しない選択をしてね。あなたなら未来を変えられるはずよ』


 はぁ?何を言ってるのよ?チャンスって何?未来を変えられる?そもそも誰よ?何の話をしているの?



「アイ、早く起きなさい!学校に遅刻するわよ!」

 遠くから、母親が何か言っている……。眠い……。

 スマホのアラームは、寝ぼけた私がいつの間にか止めていたらしい。あぁ……、もうこんな時間か……。

 あれ……?え……?何で!?

 スマホの画面を見てビックリした。この日付、私の両親が交通事故で死んだ日だ……。

「アイ、私達は先に出るからね!ちゃんと学校へ行くのよ!」

 玄関の方から母親の声が響く。間違いない……、あの日、両親が交通事故で死んだ日に戻っている……。

 一体何がどうなっているのよ!?訳が分からない……。

 でも、考えている暇は無い。急いで両親がいる玄関へ向かう。今ならまだ間に合うはず!

「ちょっと待って!行かないで!」

 既に二人とも、出勤する準備を終えていた。母親の運転する車で移動するはず。何とかして引き留めないと……。

「アイ、どうしたの?今日は早く出なくちゃいけないって、昨夜言ったでしょう?」

 母親は何か不思議そうな顔をして、私に問いかける。父親は何かの資料をタブレットで読んでいた。まだ、二人とも生きている……。

「あ……、イヤ……、ちょっと、美容室の予約……、してほしいんだけど……」

 用事は何でもいい。ほんのわずかな時間でも二人を引き留めておけば、交通事故を回避する可能性は上がるはず。

 朝の通勤ラッシュ、交通量は多い。家を出るのが数分ズレるだけでも、事故現場へ到達する時間は変わる。必然的に生存確率が上がる。

「それぐらい後でいいでしょう?母さん達、急いでいるのよ?」

 母親はこういう人だった。自分の予定を優先させて、家族を振り回す。

「まぁ、いいじゃないか。いつもネットで予約を入れているんだろう?」

 父親はそう、無関心な感じで言った。二人とも、私の記憶のまま……。変わらない……。

 何でだろう?何故だか分からないけど、涙がこぼれてしまった。今まで抑え込んでいた感情が限界を超えたみたいな。堰を切ったように、涙が止まらない。

 母親は、突然泣き出した私を見て慌てふためいているし、父親もどうしていいのか分からない様子でオロオロしている。こんな両親を見るのは何年ぶりだろう?何だか馬鹿みたいだけど、嬉しい……。

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