第30話『カウントダウン』
ネットの情報を見てビックリした。私がやり取りしていた反政府グループの一つが検挙されたらしい。
参加者百人超えの大きいグループだったけど、その大半が身柄を拘束されたみたい。治安維持法違反とか、いかにもなテキトー罪状で逮捕されたんだとか。
私の身の周りでは特に変化無いし、警察が動いているような気配も無い。そもそも証拠を残さないよう細心の注意を払っているし、私はそんなマヌケなことをしない。
検挙されたグループメンバーは災難だけど、私には影響無い。常に足跡を残さないよう気を配っているし、この国の捜査機関じゃ私の存在を炙り出すことはできないはず。
協力していたグループの一つが検挙された。ただそれだけ。だったら他のグループを利用するまで。私から見れば、所詮は捨て駒の一つでしかない。
計画を一部変更しなくちゃいけないけど次の手も考えてあるし、それ程深刻な状況じゃない。
今日も自宅でリモートワーク。午前中には会社の仕事を余裕で片付けて、午後からは対アマテラス用ツールの開発に集中。表向きには優秀な会社員を演じている。
様々な情報を分析し、行政管理システムにもセキュリティホールが存在することは分かっている。問題は、どう攻めるか?ってことだけ。
これは私の推測だけど、アマテラスは自分でセキュリティアップデートをやっているっぽい。最初はそんなバカなと思ったけど、そう考えないと辻褄が合わない。
セキュリティホールを見つけて攻撃しても、即座に穴が塞がれてしまう。とてもじゃないけど人間が対応可能なスピードじゃない。
これまで私が色々と試行錯誤して新しいツールを開発しても、次から次へと陳腐化されてきた。結果的には、やればやるほど行政管理システムのセキュリティが高まっていくだけ。
攻略法としては二つ。アマテラスの自己アップデートを上回る速度で攻撃するか、根本的にアマテラスが対応できない攻撃をするか。
前者については、ほぼ不可能。どう考えても私には無理。後者の方なら実現する可能性はあるけど、難易度はヤバいぐらいに高い。
ガッチガチに守りを固めた要塞に蟻が挑むみたいな。こんなの無理ゲーなんじゃないかと思うけど、不可能じゃない。まだ可能性はある。
アマテラスを中心とした行政管理システムは、全国の様々な拠点と通信している。もちろん暗号化されているから、通信内容は簡単には分からないんだけど、ログを見るとアマテラスの生みの親である、独立行政法人AI研究開発機構との通信も含まれていた。
おそらく何かメンテナンス用の通信をやっているんじゃないかなぁ?と思う。それ程頻繁にはアクセスしていないし。
アマテラスを直接いじられる、管理者権限のアカウントとパスワードを盗むことができれば私の勝ち。難易度は高いけど不可能じゃない。
「ダイアナ、
私がそう指示すると、モニター上のダイアナは瞬時に褐色の肌と黒いコスチュームへ変化する。私の声紋認証でのみ実行できるモード切り替え。
「マスター、ご命令は?」
喋り方も表情も通常時とは違う。この状態では、私の名前は呼ばせないでマスターと言わせている。
このモードは隠密用に作ったダイアナのもう一つの顔で、名前も単なる『null』でしかない。
高校生の時に作ったダイアナは、今でも有能なパートナー。ただ、今やっている匿名での活動に使う訳にはいかない。足がつくから。
ダイアナは独立行政法人AI研究開発機構が配布している雛形をカスタマイズして作ったんだけど、一旦ゼロから作り直した。雛形は使わず、全て自力で開発。旧バージョンとは全くの別物。
Web上のあらゆる情報へアクセスしながらも足跡は一切残さない。その為にnullモードを考えて実装した。
「過去一年分、独立行政法人AI研究開発機構からアマテラスへ向けた通信を抽出して。暗号化通信の複合にかかる時間は?」
私がそう聞くと、nullは愛想も無く表情も変えずに返答する。
「約二十六時間かかります。この推定時間はサーバリソースの使用状況により変化します」
二十六時間かぁー。まぁまぁ重い処理になりそう。
「OK。やっておいて」
ネットに繋がっているサーバで、利用できるものは勝手に使わせてもらっている。いわゆる分散コンピューティング。
私の計算では世界中に大量に散らばっているサーバリソースをちょっとずつ寄せ集めることで、スパコンを超えるぐらいの処理も可能。これなら量子コンピューターとも戦える。
とりあえず、処理が終わるまでに攻撃用ツールを完成させなくちゃなぁー。まぁ、時間に余裕はあるんだけど早く片付けたい。また失敗した時に備えて複数の攻撃パターンを考えた方が良いだろうし、楽観はしないでおこう。
あぁ、その前に休憩。カップヌードルで栄養補給しなくちゃ。朝から延々コーディングしていて何も食べてなかった。
台所はゴミだらけ。掃除してないから。暇な時に片付けようと思って先延ばし。高校生の時から全然変わっていない。
あれ?カップヌードルのストック切れてたっけ?どこを探しても、1個も見つからない。
ダルいけど買い出しに行かなくちゃなぁー……。とりあえず服を着ないと。イヤ、着られる服を探すことから始めるのか。メンドクサイ……。何か急激にダルい……。
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