第29話『反抗』

 私も無難に高校・大学生活を終え、社会人になって一年経過。無駄な揉め事は極力避けて、AIが提案した予定通りの進路を順調に進んできた。本音を言うと、全然納得はしていないんだけど。

 予定表で推されていた大学・企業から一番マシだと思えるところを選んだので、これまで特に不満を覚えることも無かったけど、心から満足はしていない。何か『やらされてる感』が強いし、与えられたノルマを淡々と消化しているみたいな。

 世の中もすっかりAIによる管理社会が浸透していて、極めて効率的な社会システムへと変化している。

 街を歩けば、当たり前のように巡回しているAI制御の警備ドローンを見かけるし、公共機関の窓口はほぼ全て人間からAIへとバトンタッチ。無駄なコミュニケーションが減ったのは良い。

 アマテラスは次から次へと新しい法案を出すけど、国会議員はロクに仕事をしていない。AI様の言う通り~みたいな調子で、ちゃんと審議しているのか疑わしいスピードで可決されていく。

 海外の研究機関からも、アマテラスの行政管理は極めて効率的だと高評価を受けているから、自分では何も考えられない頭空っぽの人はただ従うだけ。少なくとも政治家の大多数は異を唱えない。馬鹿しかいないんだろう。

 一般市民の中にはAIによる管理社会に反発している人もいるんだけど、最悪の場合テキトーな罪状で逮捕されたり、良くても更生施設送りにされちゃう。そのことについて、マスメディアはどこも大きな問題として報道せず黙殺。これは明らかに情報統制。

 私もこんな社会には納得していないので、表向きには大人しく従順な社会人の振りをしながら、匿名で抗議活動に参加中。

 参加中とは言っても、変な連中に関わると後々メンドクサイことになりそうだし、特定のグループには所属しないし直接会わない。

 足跡を辿られないよう、海外にある複数のサーバを経由して色んな人とやり取りしている。ネット上の私は、正体不明の活動家X。身バレすると色々メンドクサイことになるし、その辺は特に気を付けている。

 今メインに進めている計画としては、アマテラスのクラッキング。極端な効率至上主義的管理社会の元凶であるアマテラスをどうにかしないと、この国は変な方向に進み続けるだろうし自由が無い。

 複数の活動グループに私が開発したツールと計画書を送って、様々な方面からアプローチを試みている。私は直接手を下さず、高みの見物って訳。

 ただ、まぁ当たり前なんだけど、政府が行政管理に使う量子コンピューターだけあってセキュリティはハンパなく高い。付け入る隙が無いと言うべきか。

 でも、どんなに完璧に思えるシステムを構築しても、必ずどこかにセキュリティホールはあるはず。それを探る為に、私も寝る間を惜しんで様々なツールを開発した。

 活動に参加している人の中には公務員をやっている人も複数いるし、行政管理システムへの足がかりは掴めている。

 ただひたすら、トライ&エラーの繰り返し。これだけ全力でプログラミングに打ち込んだのは、私の人生で初めてのこと。有志からの情報提供もあり、様々なパターンを試行する。

 終わりの見えない作業なんだけど、諦めるつもりは無い。今までに無いくらいモチベーションが高まっている。意地でも成功させてやる。

 一般市民の武装蜂起を期待するのはナンセンス。そもそも戦う為の武器も気概も無い烏合の衆だし、戦場で指導者になる程の傑物もこの国には現れない。

 今の時代、革命で血を流す必要は無い。スマートに、偽政者を排除すれば良いだけの話。これが今の時代における革命。



 今私が表向きに勤務しているのは、ソフトウェア開発で名の知られた会社。それなりに知名度も実績もあるし、給料も業界平均値よりは高い。

 仕事的にも程よく頭を使うし、私には合っていると思う。リモートワークOKなのもメリット。自宅でマイペースに作業を進めて、成果物は会社のクラウドに保存するだけ。あまりにもお手軽過ぎる。

 月一で本社の会議にリアルで出席しなくちゃいけないのはメンドクサイけど、多分社員の生存確認を兼ねているんだろう。愛想を振り撒く必要はないけど、最低限の挨拶と会話ぐらいはやっている。

 直属の上司と同じチームのメンバー、それ以外は知らない。知る必要も無い。

 同期入社は何故か、既に死んだ魚のような目をした人ばかり。ルーチンワークしかできなさそう。でも、AIが適性有りと判断したから、この会社に就職したんだと思われる。

 冗談じゃない。予定表では職場内で結婚相手を見つけろなんて書かれていた。こんな連中から、どう結婚相手を探せっていうのよ?1ミリも理解できないんだけど?

 ごく普通の一般論として、職場恋愛から結婚したなんて話は私も聞いたことがある。でも自分の事として、『予定』として押し付けられるのは迷惑でしかない。進学や就職はまだ妥協できたけど、結婚を強制されるなんて嫌過ぎる。

 『予定表』では三十歳までには結婚しろって書かれていた。タイムリミットは七年後。それまでに結婚しなかったら、どうなるのかは分からない。さすがに結婚しなかったぐらいで更正施設送りにはならないと思うんだけど……、結婚相手を探すことに労力を使うよりは打倒アマテラスに力を入れたい。

 全国で抗議活動をしている人達も、理由はそれぞれ違うと思う。みんな譲れない何かを抱えて、それを守る為に活動しているんだと思う。私は自分一人で好きなように生きたい。ただそれだけの話。利害が一致しているから協力してあげてるだけ。

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