第28話『メランコリック』
私が何事にも無関心でいる間に、世の中は変わっていた。個人的には良い変化だと思えない。少なくとも直近の問題として、私の進路について無駄で無意味な指導が入っている。
学習指導要領の変更や様々な法改正が行われ、学校だけではなく社会全体が効率化された。徹底的に無駄を排除する方向へ進んでいるみたい。
政府の方針として、『適材適所の人材振り分け』なんて聞こえの良い言葉が掲げられているけど、AIによる管理社会が構築されつつある。行政管理どころか、人間がAIに管理されちゃっているじゃないの……。
既に就職済みの社会人に対しても人によっては、労働局から今より適した職種への転職勧奨が出ているんだとかで、それに反発する人たちが抗議活動をやっているなんてニュースもネットで見た。
社会システムとして完成度を高めようとしているみたいだけど、余計なお世話が過ぎる。AIに管理統制される社会だなんて、今時B級SF映画でもやらないチープな設定。
私に与えられた予定については、特に無理難題を振られている訳じゃないけど、ただ単純に面白くない。自分で選んだ進路じゃないし、与えられた選択肢の範囲内だけで考えろだなんてツマラナイ。
でも、私がどれだけ論理的に筋が通った話をしても、先生からは全否定されてしまう。AIが提案する予定こそが最善の道!みたいな。学校の先生って、こんなに頭が悪かったのかなぁ?不思議でしょうがない。
色々とストレス溜まるんだけど、予定表に従ったからといって特にデメリットは無いし、多少は妥協するべきなのかなぁ……?何でこんなメンドクサイ世の中になっちゃったんだろう……。
もうすぐ夏休み。すっかり恒例行事になっているけど、今年もまたAI研の夏合宿をやるんだとか。
ただ、去年までと違って全員参加ではなく、部員名指しで参加者が決まっている。人間関係についても指導が入っている私は強制参加。どうやら部員同士で交流しろってことらしい。
放課後の部室は私一人で占有状態。たまに緑川先生が様子を見に来るけど、下級生は誰も訪ねて来ない。用があったらリモート会議ツールで済ませるし。人がいないから無駄な会話も無い。サーバの冷却ファンが出す
リモート会議ツールの参加者を見ると、まだ一年生は全員揃っているけど、二年生は半分も参加していない。部活よりも勉強とか優先することがあるんだろう。
この学校は生徒全員部活参加なんて言っていたのは一体何だったのよ……。所属するだけでいいのなら私も好きにやらせてもらいたかったけど、今は私が部長だし、せめて二学期までは下級生の面倒見てあげてと先生から頼まれている。
仮に一年生が何か質問したとしても、先ずはダイアナが率先して回答するので、基本的に私の出番は無い。私がそういうシステムを構築したのだから。無駄な雑談には応じる必要無いし、そういうのは同じ学年同士でやってもらいたい。
でも、何か退屈だなぁー……。やることが何も無いって訳じゃなく、特に何かをやる気が起きない。大学受験についても、例の予定表で提示されているところだったら推薦くれるって話だし、特に力を入れて勉強する必要が無い。
ダイアナのチューニングも現状やれることは全部やったし、何か新しく機能追加とか考えようかなぁ?公式も特に動きは無いし。
ぼんやりとそんなことを考えていたら、来栖さんからプライベートチャット。この人は休まず部活に参加している。真面目なんだろう。
『部長、今忙しいですか?』
御國さんから役目を受け継いで以降、AI研のみんなから部長と呼ばれるようになっているんだけど、いまだに慣れない。違和感しかない。
『暇。来栖さんは?』
この人は高校卒業したら就職するとか言ってたっけ。受験勉強しなくていいから部活に出られるんだろう。あ、でも、カリキュラムが増えたとか言っていたような……?
『私はハルの改修作業が落ち着いたところです。この後、ちょっと職場体験に行きますので、今日はこれで失礼します』
え?来栖さんまだ二年生じゃないの。もう職場体験とかやってるの?
『まだ二年生の一学期で、もう職場体験とかやってるの?』
ビックリしたのでそう聞いてみたけど、来栖さんは普通に返す。
『はい。ちょっと人手が足りない職場なんだそうです。職場体験して問題無ければアルバイトをやることになります。そうなったら部活出られなくなります。。。』
う〜〜〜ん……。何だかよく分からないけど、別に私が口を挟むことじゃないし……。本人がそう決めたのなら、しょうがないよねぇ……。
『了解。頑張ってね』
『はい。失礼します』
短いやり取りだったけど、何かが気になった。もしかしたら来栖さんは、私に何か言って欲しかったのかもしれない。
でも、私は彼女のことを何も知らないし、どんな事情を抱えているのかも分からない。ただ単純に、部活の先輩後輩という関係。それだけでしかない。
その日以降、来栖さんは部活に出なくなってしまった。彼女とのやり取りは、あれが最後。職場体験でどんな所へ行ったのかも聞いていない。あの後彼女がどうなったのか、私は何も知らないまま過ごしていた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます