第27話『改変』

 私もとうとう、高校三年生になった。二年生までを振り返っても、特に印象に残る学校行事とか無かったし、同級生の顔と名前を覚えないまま、学年が上がると同時にクラス替えでシャッフルされる。

 さすがに高校生活三年目になると、私は世捨て人みたいな性格だというのが学年全体に知れ渡っているらしく、無駄に近寄ってくる人もいなくなり、ワリと快適にはなった。変人扱いされているのは不本意だけど。

 AI研の部長という肩書きはメンドクサイだけで何の役にも立たないし、また新入部員の面倒を見なくちゃいけないのもダルい。

 そんな訳で、私がAI研の為に作成したマニュアルを更にアップデートし、ダイアナに全てを学習させて講師役を演じさせることにした。

 AIがAIについて人間にレクチャーする。本当はもっと早くやりたかったんだけど、色々調整していたら時間がかかっちゃった。

 とにかく、これで下級生から無駄な質問をされても、全てダイアナに丸投げ。私は私の作業に没頭できるようになった。

 今年は新入部員が十一人。入部テストの結果から、全くのプログラミング初心者はいないと思われる。

 一応、成果物のチェックはやっているけど、基本的には下級生全員自由にやらせている。特にAI研究部としての活動方針とか無いし。

 名前の通り、AIを研究するってことを目的に、好きにしてくれればいい。元々そういう部活だったから。これは一年生も二年生も変わらない。

 私はAI研究部唯一の三年生として部長をやっているだけ。部を発展させようとか後輩を指導しようなんて考えは無い。受験勉強を口実に、徐々にフェードアウトさせてもらうつもり。



 進路指導の日。今日はどうしても鮫島さんに同席してほしいと無駄巨乳に言われ、何とか時間を割いて学校へ来てもらった。

 結局、三年連続で担任は無駄巨乳。

「鮫島さん、何かメンドクサイことになってスミマセン」

 弁護士の仕事が忙しい鮫島さんに、とりあえず無難な挨拶をしたんだけど、全然嫌な顔一つ見せない。

「私は構いませんよ。むしろ、今まで学校関係にノータッチだったことが申し訳ないです。アイさんの学力なら何も問題無いでしょうから、ご本人の判断にお任せしていましたしね」

 この人は私の父親より年上だけど、ワリと話しやすい。父親が存命中にも何度か会っているけど、変にウザく絡まれたりしないから、必要な会話だけで済ませられる。


 そして、ようやく私の番が来たので教室に入ると、緑川先生と一緒に知らない人が待ち構えていた。誰よ、この人は?

 先生達と向かい合い席に座ると、先ず謎の人物の紹介から始まった。

「こちらは文部科学省から派遣されました、進路指導管理官の方です。今日は海江さんの進路についてお話しされますので、鮫島さんもご一緒に伺って下さい」

 え、何それ?わざわざ私立高校の進路指導に文部科学省の人が来たの?どんだけ暇人なのよ?そう思ったんだけど、話を聞くと余計に意味不明。

「昨年より、学力および適性テストの結果から将来の予定表を作成し、各学校の生徒さんへお配りしていますが、海江さんの提出された進路希望は予定から外れていますよね?理由を教えて頂けますか?」

 理由なんて決まっている。予定表通りに進むのがツマラナイ。ただそれだけの話。

「私の学力と適性を考慮した上で進学先を選んだだけです。何か問題ありましたか?」

 そう言ってやったんだけど、文部科学省の人は真面目な顔を崩さない。

「あくまでAIが提案した進路がベストな選択となります。個人的な選り好みは入れないで下さい。あなたの為に最適解として出力された予定表ですから、それに従って頂きます」

 はぁ?この人は何を言っているの?頭おかしいんじゃないの?

 いかにも役人っぽい見た目で、機械的な喋り方。この人自体がAIで動いているんじゃないのかと疑ってしまう。

 すると、横から鮫島さんが口を挟む。

「アイさん、学習指導要領が改訂されているのはご存じですか?教育関連の法律も、昨年から大幅に変化しています。ちょっと私にも予定表を見せて頂けますか?」

 そう言われたけど、既に現物は手元に無い。たぶん、自宅のゴミに紛れ込んだ後に行方不明。

「アレは……失くしちゃった……かな?必要無いことしか書いてなかったし」

 私がそう言ったら、何故か文部科学省の人がムキになる。

「必要無いだなんて、とんでもない!あの予定表は行政からの正式な通達ですよ!直ぐに再発行手続きをして下さい!」

 ……この人はさっきから何を言っているんだろう?何でそんなにムキになっているの?あんな紙切れの何が大事なのよ?



 その後、文部科学省の人はとにかく予定に従えとしか言わないし、緑川先生も鮫島さんも、お役人の言うことが正しいみたいなフォローをするしで、訳が分からないまま面談は終わった。進路指導と言うより『強制』と言う方が合っている。

 何て言うか……、凄くアホクサい、バカみたいな話だった。

 鮫島さんは、学習指導要領や教育関連の法律が変わったと言っていたけど、何がどう変わったっていうのよ?進学先を自分で選ぶ自由を奪う法律ができたってーの?そんなバカな。

 とりあえずネットで検索。過去一年間の法改正関連ニュースをダイアナにピックアップさせた。私は興味無いからスルーしていただけで、世の中色々と変化しているらしい。

 メンドクサイのを我慢して情報を読み漁る。確かに、教育関連の法律が改正されているし、他にも様々な分野でAIの活用という名目の法改正が実施されていた。

「ダイアナ、日本政府が導入したアマテラスの影響範囲を調べて。執行権の有無も」

 アマテラス導入以降の変化は急加速で進んでいる。不自然に思えるスピードで。アマテラスを使う為の法改正なのか、それとも……アマテラスが権力を握る為の法改正なのか……?

「アマテラスの影響範囲、および執行権をリストアップしました。導入以降徐々に範囲が拡大され、現在全ての省庁がアマテラスの管理下にあります」

 ダイアナが作成したリストを精読するまでもなく、言葉の通り全省庁をアマテラスが管理しているらしい。

 何なの、これは……?凄い違和感がある……。

 行政管理にAIを活用するっていうのは分かるけど、何かが違うような気がする。突然学習指導要領が変わったり、進路指導がまるで強制に変わったり。

 AIが考えた予定に従えって?何でそんなことを受け入れなくちゃいけないのよ。意味が分からない。

 私も予定表を見て効率的だとは思ったけど、提示された選択肢に魅力が無いし面白くない。妥協の産物としか思えない。

 今まで無関心でスルーしていたけど、世の中の変化にゾッとした。何でこんな風に変わっちゃったんだろう……?

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