第25話『予定』

 二学期。またどうと言うことの無い、新しい季節が始まった。

 去年の九月は伽羅さんがいなくなって、AI研にポッカリ空白が生まれちゃったんだけど、今年は一年生が大勢いるから無駄に賑やか。まぁ、リアルで部室にはいつものメンバーしか居ないんだけど。

 私がやることは特に変わらない。学校とは別に、個人的にプログラミングの仕事を引き受けたり、ダイアナのチューニングを進めたり。新しい技術情報があれば調べてみたりと、特に変わり映えしない日常。

 学校の授業は簡単過ぎて退屈だから、真面目に聞いているフリをして、頭の中ではほとんどプログラミングのことを考えている。パラレル思考で余裕。リソースの無駄使いはしない。

 同級生は相変わらず、休み時間になれば無駄話ばかりしているし、授業中も先生に無駄な質問をして時間を浪費している。

 本当にこの人達は、自分と同じ年齢の同じ種族なのか疑わしい。私は何かの間違いで別次元に迷い込んでしまったように思える。



 ある日、予告無く唐突にテストを受けさせられた。中間テストでも期末テストでもない、変なタイミングの抜き打ちテスト。しかも三日がかりで、その間は部活もお休み。

 特定の教科だけじゃなく全教科を対象とした内容で、体育や美術に音楽なんていう無駄教科も含まれている。

 テストを終えた日の放課後、AI研の部室へ顔を出すと、水辺さんと御國さんから三年生も同じようなテストを受けたという話を聞いたし、一年生も同様のテストを受けたことをリモート会議で聞いた。

 私も含めて他の学年・クラスでも先生からは特に説明が無かったと言うので、どういう主旨でのテストなのかは分からない。単純に学力テストっていう感じじゃなかったような気がする。

 別に難しい内容じゃなく、ごくごく簡単なテストだったけど、少し違和感。まぁ、余裕で終わったから別にいいけど。



 謎のテストが終わって一週間後、進路指導が始まった。まぁ、私の家は保護者がいないし、進学先は適当な大学を選ぶつもりだからどうでもいいんだけど。

 いつもの教室で先生と対象生徒&保護者のセット。廊下には順番待ちで手持ち無沙汰な私が居る。こんな無駄な時間を浪費するぐらいなら、コーディングに回したい。

 ただ、順番待ちとは言っても、いつ自分が呼ばれるか分からないから、他の作業に割り当てるのは難しい。私の前は誰だっけ?同じクラスだけど全然知らない人だし、面談にどれぐらい時間がかかるのかを全く予想できない。

 そんな感じで軽くイラつきながら無駄な時間を過ごし、ようやく私の順番になったので教室に入ると、緑川先生は少し驚いたような顔を見せる。

「あら海江さん、一人ですか?あの、保護者の代理になる方は?以前お聞きした、未成年後見人の弁護士さんは?」

 あぁ、先生には言ってなかったけど、弁護士の鮫島さんは超有能で多忙な人だから。こんなツマラナイことにわざわざ呼ぶ必要は無い。私のことを信頼してくれてるから、普段ほとんど連絡もしないし。

「今日はお仕事の関係で出席できないそうです。私の進路については、学力的に何も問題無いと思いますけど」

 そう言ってやると、先生も一応は理解を示してくれる。事実、学力テストでは私が常に学年1位なんだから。

「そうでしたか……。まぁ、海江さんの学力でしたら、何も問題無いかと思いますけど……。こちらを見て下さい。海江さんが今後選択するべき進路について、予定表が届いています」

 え?今何て言ったの?予定表って何?

 ちょっと面食らいながら渡された書類を見ると、私が今後どう学校生活を送るか、選ぶべき進学先候補、選ぶべき就職先候補がタイムラインに沿って羅列されている。何これ?こんなの初めて見たんだけど。

「何ですかこれ?誰が作ったんですか?」

 そう質問すると、緑川先生は事務的に返答する。

「先日のテストの結果をAIが分析して、文部科学省から正式に発行されたものです。海江さんの学力と適性に合わせた予定になっているそうですよ」

 AIが分析した結果……?もう一度予定表を確認してみたけど、確かに、私に合わせて無理の無い妥当なスケジュールと選択肢が提示されている。

 無駄な人間関係にまで言及されているのは意味不明だけど、この予定に沿って行動・進学すればいいってことなの……?

「まぁ……、進路について特におかしなところは見当たらないですし……、私なら余裕で合格出来る大学名が並んでいますけど……、人間関係や就職先まで候補が出ているんですか?そこまで予定に組み込んでいるのは意味が分からないんですけど……」

 何かイマイチスッキリしないので先生に聞いてみた。でも先生は、落ち着き払った態度で応える。

「他の生徒さんもみんな、すごく良く考えられた予定表が発行されているんですよ。文部科学省からの通達では、生徒の学力と適性をAIが最大限考慮して最適化されたモノなので、予定表通りに学校生活を送るよう指導するように、とのことです」

 何だろう……?AIが分析して最適化された人生の予定表……?こんな紙切れに書いてある通りに、私は生きていかなくちゃいけないの……?

 そもそも、文部科学省がAIをそんなことに使っているってのに驚いた。完全に予想外。

 コードネーム『アマテラス』……。以前、行政管理に量子コンピューターと最新のAIを導入するって話は聞いたけど、もしかしたら、これにも『アマテラス』が関わっているのかなぁ……?

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