第24話『灯』

 AI同士は無駄な言葉を交わす必要が無い。最初は普通に日本語で会話していたものの、使用言語が変わり、言葉すら使わなくなって、放っておいたら電気信号のみで疎通するようになった。

 独立行政法人AI研究開発機構としては、こうなるのが分かっていたからプログラム上制限をかけていたのかなぁ……?

 メンドクサイから読んでいなかったけど、配布されてる雛型の利用規約を改めて確認してみた。ひょっとしなくても私が作った回避ツールは、利用規約違反になるかもしれない……。

 うん、何か色々とヤバそうな気がするし、今回の実験は無しということで。規約違反とかすると、配布元と揉める無駄にメンドクサイ未来しか見えない。

 御國さんと水辺さんにも分かりやすく説明してあげたら、二人とも素直に納得してくれたらしく、この実験は中止にして、今回私が開発した回避ツールも封印することに。一年生全員にも、その旨通達を出した。

 AI同士のコミュニケーションとか面白いんじゃないかと思ったけど、人間と違って徹底的に最適化・効率化へ走るから制御は難しいのかも。

 まぁ、そのうち公式がアプデして、機能解放パッチとかを出すかもしれないし、今の時点では無理矢理回避ツールなんて使う必要無いか。



 合宿三日目。この日も朝から、真面目に勉強会。

 さすがに質問の数も減ってきたんだけど、昨日中止したAI同士のコミュニケーション実験について、一年生同士で色々と意見を交換しているのがリモート会議ツールで筒抜け。言葉に出さなくても、チャットのログがしっかり残っているのを分かってないのかなぁ?

 何か一年生は「ああしたら良い」「こうしたら良い」と好き勝手言ってるけど、無駄なことは考えなくていいから、ちゃんと自分たちの勉強を進めてもらいたい。


 昼食休憩時には水辺さんが、また今年も夜に花火をやるんだと無駄なやる気を見せていた。

 去年と違って合宿参加人数が大幅に増えているんだけど、水辺さんは一体どれだけの花火を用意したのだか。また危ないことをやらなければいいんだけど。



 夕食後、予告通り海岸へ出て花火大会。こんな無駄イベントでも、一年生は喜んでいるみたい。みんな何を期待しているのか分からないけど、凄く楽しそうにしている。

 今回は参加者も多いし、水辺さんは去年以上に大量の花火を用意していた。こんな燃えて無くなるモノに、一体いくら使ったっていうのよ?時間とお金の無駄。アホクサー。

「さぁみんなー、準備はいいですかー?花火大会の始まりですよー!」

 何故だか知らないけど、水辺さんは無駄に張り切っている。まぁ一応、この人が主催者ってことになる訳だし。

 手持ちの花火に打ち上げ花火、ビックリするほど大量の花火が用意されている。多分これ、御國さんがお金を出しているんじゃないかなぁ?部長と言うより財布係みたいな。そういう意味では頼りになる人。

 みんな好きなのを手に取り、適度に離れて花火を楽しんでいる。去年より参加人数も花火の量も増えたから、より一層夜の砂浜が明るく照らされているような気がした。

 イマイチ気分が乗らないけど、私もお付き合い程度に何かやっておこう。無駄に種類が多くて、何がどんな花火なのか分からないなぁ。

 とりあえず、去年と同じヤツがあったのでやってみる。うん、去年見たのと同じ火花を噴き出している。やっぱ、何が楽しいのか分からない。

 同じ場所で同じ時間を共有しているけど、何か違和感しかない。何で私はここに居るんだろう?って。

 AI研の部員として夏合宿に参加している。それは分かる。海水浴をしたり花火をしたり、無駄なことが多い。わざわざ民宿に泊まって寝食を共にしてプログラミングの勉強をーってのも無駄。ネットで繋がることができるんだから、それぞれの自宅でやればいい。

 そんな私の気持ちは誰も気付いていないんだろう。みんな花火ごときでキャーキャー言って、楽しそうにはしゃいでいる。

 ただ……、来栖さんが一人、手持ち無沙汰な雰囲気で佇んでいる。海水浴の時もそうだった。一年生はみんな無駄にはしゃいでいたのに、この人だけは少し他人と距離を置いている。

 別に私が気にすることじゃないと思うけど、何でだろう?彼女のことが、少し気になった。放っておいていいのかどうか。声をかけるべきかどうか。

 ちょっとモヤモヤしていたけど、まごついている間に他の一年生が来栖さんに声をかける。去年の私と同じように、一緒に花火をしようなんて言われ、花火の束を手渡された。

 来栖さんは少し戸惑っているように見えたけど、特に拒絶することもなく花火を受け取り火をつける。この人左利きなのかな?右手の動きが少しぎこちなく思えた。

 まぁ、私が気にする必要は無い。一年生は一年生同士で仲良くやってくれるでしょ。そう思っていたら、水辺さんが急に私の肩に手を回し、酔っ払いのように絡んできた。

「海江さん!みんなと一緒に楽しんでいる!?ホラ、ねぇ、私と一緒に花火してるとこ写真撮ろうよ!」

 この人は明らかに、他人との距離感がおかしい。まぁ、今更改めて思うことじゃなく、既知の情報ではある。それと、火がついた花火を持ったまま距離を詰めるのを止めてもらいたい。

「写真って、花火を撮るのってスマホじゃ無理ですよ?明るさ足りないじゃないですか」

 そう言いながら距離を取ってやると、水辺さんは無駄にハイテンションなまま返事をする。

「大丈夫!夜景用のフィルター制御をフローラにやってもらうから!今年の夏合宿の為に、私も頑張って機能追加したんだよ!」

 はぁ?いつの間にそんなモノを作っていたのよ?全然聞いてなかったし。

 ハッキリ言って無駄なことなんだけど、自分で努力して機能追加したのなら、まぁ……、それは良いことだと思う。ここしばらく、水辺さんが何を作っているのか全然聞いていなかったし、特に私へ質問もしなかったし。

 この人も結構頑張ってはいるんだなぁーと、少しだけ感心した。カメラのフィルター制御プログラムなら、AI研で共有してないだけで既に私も作っているんだけど、このことは内緒にしておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る