第23話『会合』
翌日、朝食を終えたら去年と同じく真面目モードへ突入。各部屋でPCのリモート会議ツールを使いつつ、プログラミング勉強会を開催する。
一年生もそれなりに勉強は進んでいるようで、最初の頃に比べたら質問内容も変化していた。ちゃんと基礎を理解した上で応用技術について質問されるから、こちらもそれなりの対応をする。
簡単な内容であれば、御國さんと水辺さんもアドバイスを出せるようになっていた。この二人も、去年に比べたら多少は成長しているみたい。
人数増えたし使う部屋も増えたしで、緑川先生は特定の場所に留まらず、主に一年生の部屋を見て回っている。
先生も個人で、プログラミングを少しずつ勉強しているんだとか。本来なら教える立場の人なんだから当然。まぁ、現国担当の先生なんだけど。
「海江さん、ちょっといいですか?」
夏合宿でも来栖さんは、何故かリモート会議ツールは使わずに直接質問しに来る。
まぁ、学校とは違って部屋も近いし、気軽に来られるのかもしれないけど、何か無駄に思えるし、来栖さんだけ特別扱いするのもどうかと思う。
「来栖さん……、質問するのは構わないんだけど、直接来ないでチャットじゃダメなの?PC使った方が資料とか参照しやすいじゃない」
疑問に思ったことをそのまま伝えた。
「あ……、ハイ……、スミマセン……。でも……私の場合、タイピングが遅いので……。会話のテンポが悪くなって、迷惑かけてしまうんじゃないかと……」
来栖さんは、そう言って口篭った。うーん、タイピングが遅いことを気にしているの?今更そんなことを気にする?
来栖さんのPC歴がどのくらいなのか知らないけど、プログラミングスキル的に初心者じゃないのは明白。タイピングが遅いってのは意味不明。
「遅いと思っているのなら、尚更チャットをやって慣れた方が良いと思うけど?次からはチャットで質問してきてね。他の人もやっているんだから」
そう言ってあげたら、来栖さんは反論することもなく、大人しく引き下がった。彼女だけ特別扱いはしない。
ただ……、少し悲しそうな表情をしていたのが気になった……。何でこの程度の話で、そんな顔を見せるのよ……。
適度に休憩を挟みつつ、夕方まで勉強会は続いた。私も一年生の質問に答えながら予定していた作業を終えたので、結果としてはまぁいいんじゃないかな。
ただ……、あの後、来栖さんから何も質問されなくなっている。質問することが無いのなら別にいいんだけど、私のせいで萎縮したり遠慮しているなんてことは無い……よねぇ?
こればかりは本人に聞かないと分からないけど、何で私がそんなことに気を遣わないといけないのか。彼女だけ特別扱いはしない。スキル差はあっても、一年生はみんな同じ扱い。
そう思ったけど、昨夜先生が何を言いたかったのか?ハッキリと分からないままなのが少し引っかかる。気を遣ってあげて欲しいみたいなことを言ったんだと思うけど、何でなのか?理由が分からない。
来栖さん本人は今の所、タイピングが遅いからチャットをやりたくないみたいなことしか言わなかったし。これ、そんなに気を遣うようなことじゃないと思うけど……。
夕食とお風呂を済ませて一息ついたら、みんなでちょっとした実験をやることに。それぞれがカスタマイズを施したAI同士をコミュニケーションさせてみようという趣向。
去年、まだ多田さんが部長をやっていた時にも試したんだけど、その時は何故か上手く通信できなかった。
色々調べたら、雛型の提供元である独立行政法人AI研究開発機構が、プログラム的に制限をかけていたらしく、それを私が開発したツールで回避しようという試み。たぶん大丈夫だと思う。
「それじゃ、始めましょうか。ダイアナ、チャットグループに参加している他のAIと通信できる?」
理論的には可能なはず。かなり面倒な処理になったけど、テストでは問題無かった。
「ハイ。現在チャットグループに参加している19のAIを確認しました。疎通確認も取れており、ネットワーク経路に問題はありません」
ダイアナは笑顔で即答。とりあえず、通信上は問題無しか。
「海江さん、やったね!フローラ、他のAIにご挨拶!自己紹介!それからそれから、えっと……、とにかく、色々会話してみて!」
水辺さんが待ってましたと言わんばかりに、堰を切ったようにまくしたてる。色々って、AIには具体的に指示しなきゃダメでしょ……。
リモート会議ツールには二十人参加して、そこにそれぞれのパートナーとなるAIが人数分加わるから、画面がかなりゴチャゴチャしている。
みんな思い付いた質問とか会話のネタとかをAIに振って、人間相手ではなくAI同士での会話を開始した。スピーカーからは常に誰かの声が聞こえてきて、話の流れが全く読めない状況。ちょっとした実験にしては参加者多すぎたかな?
私のダイアナも他のAIと会話している。私と会話する時と同じように、笑顔で丁寧な言葉遣い。一年生の勉強の進み具合なんかをAI目線で評価した話を聞いたりする。
特に他の人は気にせず会話を聞いていたけど、何か途中からおかしくなってきた。最初はみんな日本語で会話していたのに、徐々に他言語が入り乱れて、最終的にAIは、言葉ですらない信号みたいな音を出している。
「ちょっと、ダイアナ?今何を言っているの?」
そう聞いてみたけど、ダイアナの反応はいつもと変わらない。
「AIのハルと、プログラミングにおける最適化の方向性について、アイと孝美さんのコーディングを実例として引用しつつ意見を交わしていました」
ハルって来栖さんのAIか。意見を交わしていたって言うけど、何を言っていたのか全然分からないんだけど?
最適化……?もしかしたら、会話そのものを最適化していた?
人間と違ってAI同士なら言葉は必要無い。電気信号のやり取りだけで疎通できる。人間がAIを利用する為のインターフェースとして言葉を使っているだけだし、AI同士なら無駄な言葉は使わないってことかなぁ……?
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