第21話『二度目の夏』
二年生の一学期が終わった。私の成績は安定しているから何も問題無い。体育は別として。
今年もAI研の夏合宿をやるんだとかで、また去年と同じ民宿へ向かうことに。部員が増えちゃったからワゴン車じゃ全員乗られないと思ったけど、今年は貸切バスを運転手付きでレンタルしたんだとか。
AI研も御國さんが部長になったことで予算が増えたらしく、何かとお金で解決できるようになったらしい。こういう面では頼りになる人。
それにしても、部員二十人(+先生)で押しかけても民宿の人は大丈夫なのかなぁ?あそこ、かなりショボい宿だったし。
せっかく予算が増えたのだから、もっと良い宿を予約すればいいのに。去年と違って、宿泊日程が三泊四日に伸びてはいるんだけどさー。
まぁ、私が無駄に余計なことを考える必要は無い。民宿側も、キャパ足りるから予約を受けたんでしょ。去年もガラガラだったし、私達以外に宿泊客はいないのかもしれない。
民宿の女将さんは去年と変わらず、愛想良く出迎えてくれた。今年は人数が増えた分、愛想も去年より少し増量しているかもしれない。
さすがに二十人まとめて宿泊できるような大部屋は無いので、複数の部屋に分かれた。まぁ、この民宿も一応ネット環境は整っているし、去年の反省として電源確保も考慮されているから大丈夫でしょ。
一年生は男子五人を一部屋、女子十二人を二部屋に割り振って、私達二~三年生と先生で一部屋使うことに。今年一年生が入部して男子が増えたけど、変なトラブルとか起こさないでもらいたい。
とりあえず、民宿内のLANを借りて即席ネットワークを構築。それぞれの部屋を繋いでリモート会議ツールの接続確認。
なんだ、結局学校でやってるのと同じことをやるんじゃないの。アホクサ……。
通信状態に問題無いことを確認したら、去年と同じくみんなで海水浴。どうしてこの人達は、そんなに海へ行きたがるのか。今年は一応、私も水着を用意してきたけど、無駄にはしゃいで泳ぐつもりは無い。
日焼止め塗るのもメンドクサイし、水着の上に薄手のパーカーを着て砂浜に出た。私は波打ち際で、適当に時間を潰そう。
一年生はみんな元気一杯で、楽しそうに遊んでいる。そこへ無駄に元気な水辺さんと御國さんも加わり、キャーキャー言ってはしゃいでいる。水辺さん達は一年生と精神年齢的に大差ないんだろう。
それにしても……、無駄な時間だ。去年も同じことを考えたけど、何故みんな海水浴程度のことでそんなにはしゃいでいるのよ。
何が楽しいのか心底理解に苦しんでいたけど、一年生も全員が海水浴を満喫している訳じゃないことに気付いた。
来栖さんも私と同じようなパーカーを水着の上に着ていて、みんなと水遊びはせずに、少し距離を置いて暇そうにしている。
特に彼女と何か会話したかった訳じゃないけど、何故か視線が合ってしまった。来栖さんは私の方へ駆け寄って来る。
「海江さん、泳がないんですか?」
そう言われたけど、答えは決まっている。
「私は別に、海水浴をしに来た訳じゃないし。先生から夏合宿に参加しろって言われて、仕方なくみんなに付き合ってここに来ただけ」
簡潔に、事実だけを伝えた。
「私も……同じです。夏合宿って言われたから、集中的にプログラミングの勉強をするのかと思いましたが、イキナリ海水浴って……。ただ遊びに来た訳じゃないんですよね……?」
私が去年思ったのと同じことに、来栖さんも疑問を感じているみたい。
「去年は二日目からちゃんと勉強したんだけどね。まぁ、今年と違って二泊三日だったから、大して勉強する時間は取れなかったけど」
そう教えてあげると、来栖さんは何か緊張が取れたみたいな、安心したような表情を見せる。
「そうなんですね……。少し安心しました。何て言うか、私こういうの苦手ですから……」
うん……、それについては私も同じだ。同じ考えの人がいて、少しホッとした。
来栖さんは、いつも大人しい。普段どんな学校生活を送っているのか知らないけど、わざわざ部室へ質問しに来るのに、リモート会議ではほとんど発言しないから、あまり存在感が無い。
プログラミングはできる人だと思う。私がアドバイスしたことは、ちゃんと理解して改善しているし。他の一年生も、来栖さんを見習ってもらいたい。
まぁ、直接部室まで質問しに来なくていいから、人の話をちゃんと聞いて自分の頭で考えて、しっかり理解してもらえればいい。無駄なコミュニケーションは必要無いし。
夕食。去年と同じような、魚メインの料理がテーブルに並んでいる。まぁ、これは仕方がないこととして諦めた。
んで、今年は貸切バスをレンタルしているし、三泊四日に伸びているしで、緑川先生はビールを呑んでいる。少しは羽目を外したいってことなんだろう。私には理解できないことだけど。
私の両親は、全然お酒を呑まない人だった。少なくとも自宅では。もしかしたら外出先で呑んでいたのかもしれないけど、私の記憶に残っている限りはシラフの状態だけ。両親が酔っている姿を見たことは無い。
私が個人的にやり取りしている仕事関係の人に、二十歳になったら一緒に呑みましょうなんて社交辞令を言われたこともあるけど、別に興味無いし。
酔っ払いの失敗談なんていくらでも聞いたことあるから、わざわざリスクを背負うつもりは無い。
「先生ッ!今夜は私達のことなんて気にしないでいいですから、ジャンジャン呑んで下さい!」
水辺さんは自分からリスクを増やすタイプ。私は後のことなんて知らないし関係無いから、変に巻き込まないでもらいたい。
「いえいえ、お酒は節度をもって楽しむものですよ。皆さんの前でみっともない姿は見せられませんからね」
緑川先生は真っ当な返事をする。まぁ、先生なんだから当然。
でも、まだ瓶ビール一本空けてないのに、既に顔がほんのり赤くなっているんだけど。先生、あまりお酒に強くないのかなぁ……?
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