第20話『違和感』

 何か健康保険の更新が必要だとかで、役所に呼ばれた。保険証って何で有効期間が一年しかないのよ。メンドクサイ……。

 両親が死んで以降、私の家庭環境は何も変わらないんだから、役所の都合で更新手続きなんて無駄にしか思えない。

 とは言っても有効期限切れになるのは困るので、渋々区役所へ向かう。役所のあとで学校行くのもダルいし、今日は欠席ということにした。帰りにスーパーへカップヌードル買いに行こう。



「海江さん、今回の更新から保険証が新しいタイプに切り替わりますので。顔写真の撮影をあちらでお願いします」

 窓口の人から説明を受けたけど、国民健康保険のシステム自体に変更が入ったんだとか。誘導に従って流れ作業のように写真撮影。書類に記入してから十分も待たずに新しい保険証を渡された。

 何かクレカや銀行のキャッシュカードみたいにちゃんとしたヤツで、ICチップも付いている。それに私の顔写真がプリントされていて、何だか身分証みたい。へー、こんな風に変わっちゃったんだー?

 何かよく分かんないけど、窓口での対応も以前よりスムーズだった。前に来た時より役所の人が減ったような気がするけど、しっかりしたマニュアルが整備されてシステマチックになった?みたいな。

 まぁ、そうするのが当然。今まで役所のグダグダ感にはイライラさせられてたけど、本来あるべき姿になったと言うべきか。

 新しい保険証を財布に入れて、サッサと役所を出ようかと思ったんだけど、何か違和感。何だろう……?何かが違う……ような気がする……。

 さっき思った通り、人が少なくなっている。キチンと集計してないし記録してないから、正確な人数は分からないけど。

 窓口の向こう側、役所に勤める人達に違和感……?

 前に来た時と同じように、ネックストラップにIDカードをぶら下げた、いかにも事務職って感じの人ばかり……。

 よく分からないけど、一々気にする必要は無い。私には関係無い。役所がどうなっても知ったことじゃない。そう自分を納得させて、役所を後にした。



 スーパーで買い物して自宅に帰ったら、早速昨日引き受けた案件に取りかかる。親の遺産と保険金があるから生活には困らないんだけど、たまには仕事としてプログラミングをやっておきたい。気分転換にもなるし。

 今回の案件、プログラミングとして難易度は高くないし、ボリューム的にはすぐ終わりそう。

 何より、メンドクサくて細かい作業はダイアナがサポートしてくれるし、仕事的に以前より楽になった。有能な部下ができたみたいな。

 今の作業ペースなら余裕で納期に間に合うし、凄い気楽にやれている。私もAIの進歩で確実に恩恵を受けているのを実感。

「ダイアナ、仕様書に従ってテストをやって。エビデンスは専用フォルダに格納しておいてね」

 私が指示しておけば、ダイアナはちゃんと指示した通りの作業をやって、期待した通りの結果を出してくれる。本当に、前よりもかなり便利になった。

 ちょっと早い時間だけど、作業的にキリが良いから夕食にしよう。今日買って来たカップヌードルの新作がどんな感じか気になるし。

 台所でお湯を沸かし、いつも通りカップに注いでスマホのタイマーをセット。たぶん、こうしている間に、ダイアナに頼んだテストも終わっているでしょ。

 熱々のカップヌードルを持って部屋に戻ると、既にダイアナに頼んだ処理は終わっていた。作業ログとエビデンスを確認したけど問題無い。

 何か呆気ないというか手応えが無いというか、一仕事終えた達成感?みたいのが無い。楽なのは良いんだけど。

 まぁ、クライアントに依頼された成果物は出力できた訳だし、何も問題無い。あとはメールで納品するだけ。

「ダイアナ、私の名前でクライアントへの完了報告メールを書いて。成果物はまとめてパスワード付きの圧縮ファイルにしておいてね」

 そう指示すれば、ダイアナは1秒もかけずにメールの文面を出力してくれる。ちゃんとビジネスメールの体裁で必要な情報をまとめているし、日本語的に不自然なところも見当たらない。

 一通り確認したらメール送信。私がカップヌードルを食べ終える前に全て片付いた。凄い楽。

 私一人でも余裕で対応できる案件だったけど、ダイアナのお手伝いがあれば正に 余裕綽々よゆうしゃくしゃく。AIも頼れるパートナーにまで育ってきたかなー。

 でも何か……、スッキリしないというか……。出力結果に何も問題は無いんだけど、何かが違うというか……。

 ダイアナは私が指示した通りに作業して、キッチリと期待通りの結果を出してくれる。何も違わないんだけど、何か違和感がある……。

 単純に、全てのタスクを自分で処理していないからかなぁ?以前は依頼された仕事を全部私一人で片付けていたし。

 私がダイアナを作って一年以上経つ。チューニングを繰り返して、初期状態に比べたら確実にクオリティは上がっている。

 最初の頃は単純な話し相手レベルだったのが、頼りになるパートナーみたいになった。確実に前より良くなっている。

 コーディングをやらせてみても、以前より精度が上がってミスはほとんど無い。これは素直に喜ぶべき?

 うん……、まぁ、喜んでいいのかなぁ……?確実に改善されている訳だし。

 PCのモニターでは、いつも通りダイアナが微笑みを浮かべて待機している。私が指示しなければ何もしない。

 何だか、役所の窓口みたい……。

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