第19話『リニューアル』

 季節は移り変わり、私は二年生に。多田さんが卒業したあと、AI研は御國さんが部長になり、新一年生から入部希望者がチラホラ来るようになった。

 既にネットでAIの情報が溢れているし、今では入部テストの難易度も高くない。ちょっとプログラミングを勉強すれば誰でもクリアできるレベル。

 そもそも新部長の御國さんは、誰でもウェルカムな姿勢なので、あっという間に部員が倍増。倍どころか、今では二十人の大所帯にまで膨れ上がっている。とてもじゃないけど部室に全員は入りきれない。

 かと言って、サーバーのある部室を簡単には移転できないし、当面の間一年生はそれぞれの教室からリモート接続させて、私達二年生と三年生だけが部室を利用することに。

 正直言ってホッとした。訳の分からない下級生が大勢入部してくるなんて、この部室が無駄に騒がしくなるだけだし。

 ノイズだらけの教室から逃れたくて部室で時間を潰しているのに、下級生の面倒見るなんて嫌過ぎる。絶対やりたくない。

 そう思っていたんだけど、リモートでも一年生から色々質問がくるから、部活中は全く落ち着く暇も無い。

 別々の場所からリモート会議ツールでリアルタイムに繋がっているので、それぞれバラバラに質問してくる。話をとりまとめる人もいない。こういう場面では部長の御國さんも役に立たない。最悪だ……。

 せめて無駄にコミュ力高目の水辺さんが対応してくれればと思うけど、この人は無駄話ばかり張り切って、プログラミングの技術的な話は最終的に私へ回されてしまう。

 とりあえず、新一年生には私が作ったマニュアルを精読してもらい、ネットの情報も検索した上で、それでも分からない時だけ質問するよう通達を出した。自分で調べることすらできないようじゃ話にならない。

 何か、私がAI研に入部した最初の頃を思い出す。あの時は上級生の質問に答えていたんだけど。

 プログラミングに興味を持つのは自由だけど、自分から勉強する姿勢を見せないやからとは関わりたくない。単なる時間の無駄。



「最近AI研の新入部員も落ち着いてきたのかな〜?チャットも静かになってきたし〜。海江さんがしっかり指導してくれたお陰だね〜♪」

 お飾り部長の御國さんが、のん気なことを言う。もう三年生なんだし、ちゃんと部長らしく振る舞ってもらいたい。

「私は別に、AI研で指導役になった訳じゃないです。必要な情報はマニュアルにまとめてますし、基本的には自分で調べて考えてもらいますから」

 そう素っ気なく返答したけど、もう六月だし、新入部員を迎え入れた最初の頃に比べたら大分マシになってきた。

 何か分からないことを一年生同士で相談したりと、それなりにやる気を見せている。部活中はAI研部員みんなリモート会議に参加しているので会話は筒抜け。

 聞く必要の無い話題が多いけど、たまに私へ質問が飛んでくるからミュートする訳にはいかない。質問の頻度も質も、最初に比べればマシにはなっている。

 そんな一年生の中でも、来なくていいって言ってるのに部室へ直接顔を出す人がいる。

「海江さん、ちょっといいですか?AI研マニュアル応用編の274ページなんですけど……」

 この人は来栖くるす孝美たかみ。新入部員の中では一番やる気があるみたい。

 それほど頻繁に質問しにくる訳じゃないけど、プログラミングについては理解が早いので、こちらも教えやすいのは助かる。質問するにしても、ちゃんと要点をまとめてくるから会話が成立する。

「……分かりました。ちょっとソースコードを修正してみます」

 こちらの言うことを素直に聞いてくれるので、無駄にストレスを溜めなくて済むのは助かる。新入部員の中では一番まともな人。

 来栖さんが部室を出たあと、御國さんと水辺さんが何故か含み笑いを浮かべている。

「……二人とも、どうかしましたか?」

 何か凄く嫌なんだけど。言いたいことがあるなら早く言ってほしい。

「ううん、海江さんも二年生として、ちゃんと後輩の面倒見る先輩になったんだな~って思ってね♪去年は私達先輩の方が海江さんを頼っちゃってたけど、今のが正しい姿?みたいな?」

 水辺さんが何か要領を得ないことを言う。本当に、この人達は先輩なのに頼りない。

「やっぱり海江さんが一番プログラミングスキル高いし~、教えるのも上手だし~、一年の人も頼っちゃうよねぇ~♪私達も三年生らしく、頼られる先輩になるよう頑張るからね~♪」

 ゆるキャラ御國さんはそう、頼りない物言いをする。まぁ、期待はしないけど頑張って下さい。

 でも、二人とも三年生だから大学受験も控えているだろうし、今後それほど部活に時間は割けないでしょ。

 伽羅さんは学力高いから余裕でMITへ留学したし、多田さんも第一志望に合格したって聞いた。そして伽羅さんは、夏休みが終わる前にアメリカへ行っちゃったし、多田さんも二学期以降は部活を休むことが多くなった。

 三年生になっても部活やってる人なんて、よほど余裕がある暇人だけ。この二人の場合、暇はともかく学力的に余裕があるようには見えない

 まぁ、私には関係無い。この二人がどういう進路を選ぶのかなんて知らないし興味も無い。

 現状、二年生が私一人しかいないってのが最重要課題。来年三年生になったら、必然的に私がAI研の部長になるってことじゃないの……。あぁ、メンドクサイ……。

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