第18話『空白』

 夏休みも終わり二学期。AI研で今まで伽羅さんが使っていた場所が空席になった。

 異質な存在感のある人だったし、そこがポッカリ空席になると違和感。まぁ、私には関係無い話。

 伽羅さんが出国する日、AI研のみんなは空港まで見送りに行ったそうだけど、私は行かなかった。そこまで親しい関係じゃないし、行く必要性を感じなかったから。

 あの人がMITへの留学を選んだからといって、私には何も関係無い。元々AI研の中でも独立独歩って感じの人だったし、プログラミングスキル的にも特異な存在。

 部員のコーチングにもっと積極的になってくれれば、私も無駄な苦労をしなくて済んだのに、私をコーチ役として利用する姿勢は最後まで変わらなかった。そのことについては、正直言って不満しか無い。

「海江さん、どうして伽羅さんのお見送り来なかったの!?私も詩穂も、多田さんに緑川先生も空港まで行ったんだよ!?」

 水辺さんが鼻息荒く聞いてくる。そう言うけど、お見送りって何しに行ったのよ?空港でチェックインするまでの間、適当におしゃべりするぐらいしかやること無いでしょ。

「行く必要性を感じなかったので。私が行っても、特にやることも話すことも無いですから」

 無駄なことに時間を費やしても意味が無い。当たり前のことを言ってやったけど、水辺さんは納得してくれない。

「そんなことないよ!海江さんにとっては短い期間だったけど、AI研で一緒に過ごした先輩じゃない!最後の挨拶ぐらいはしておくべきだったんだよ!?」

 そう力説する水辺さんだけど、変に仲間意識を持たないでもらいたい。たまたま同じ学校で同じ部に所属しているだけなんだから。

 伽羅さんが優秀な人なのは認めているけど、仲良くなりたいとか親しくなりたいとかは全然思わない。

 最後の挨拶とか言っても、もう二度と会えない訳じゃないし、AI研の部員でグループLINEやってるじゃない。話があるならそっちで済ませればいいから、直接会う必要性皆無。私からは一度も呼びかけたこと無いけど。

「スマホやPCを通して、いつでも連絡できるじゃないですか。日本を出てアメリカへ行ったってだけで、そんな特別なことじゃないですよね?またそのうち、何かの機会で再会することもあるでしょうし」

 私の正論に、水辺さんは反論できないようだ。何か言いたそうだけど、言葉を詰まらせている。

「海江さんは何て言うか……、ドライな人だねぇ……。言ってることは間違っていないと思うよ。でも、何て言えばいいんだろう……?人間関係って、そこまで割り切った考え方をしなくてもいいんじゃないかな……?」

 多田さんが何だか言いにくそうに、腫れ物を触るような言い方で意見する。大きなお世話。

 馴れ合いは要らないし群れる必要も無い。何でこの人達はそう、無駄な繋がりを作ろうとするのよ?あぁ、メンドクサイ……。ウンザリする……。



 1ヶ月経過。伽羅さんがいないAI研も、すっかり落ち着いてきた。

 無駄なことに煩わせられたくないので、部員向けのマニュアルも更に充実させて、私は自分の作業に集中できる環境を手に入れた。

 時折無駄話に巻き込まれることはあるけど、基本スルー。適当に受け流すだけ。あまりしつこく絡んでくるようなら、ヘッドホンをつけて強制シャットアウトする。これが日常。

 コーディングして動作確認。改善点を探して最適化、その繰り返し。地道にバージョンアップを重ねて、私のダイアナは更に完成度が高まってきた。

 世間的にも独立行政法人AI研究開発機構が配布している雛形の解析は進んでいて、私達以外にも利用者は増えている。

 ネットの情報も大分充実してきて、ようやく世間が追いついてきたって感じ。ご丁寧に、導入方法を教えてくれるWebサイトや解説動画なんかも増えているから、プログラミングスキルの無い人でもハードルは低くなったみたい。

 AI研の部室以外でも、スマホでAIと会話しているらしき人をよく見るし、ようやく一般にも広がってきたのかな?まぁ、どうでもいいことだけど。



 ある日、自宅でカップヌードルチリトマト味を食べながら、何となく夕方のニュースを見ていたら、日本政府が導入した量子コンピューターの話題が出ていた。

 独立行政法人AI研究開発機構が開発した新しいAI『アマテラス』を活用した、行政管理システムを本格的に運用開始するんだとか。

 何か以前そういう話を聞いた……ような……?そうかぁー、ちゃんと本番環境まで持って行けたのね。

 どんなシステムを組んだのか知らないけど、運用開始するっていうのだから、それなりのシステムなんだと思う。

 また税金の無駄遣いとか言われなければいいんだけどね。またはテクノロジーの無駄遣いとか。

 量子コンピューターに新しいAI。いくら予算と労力を費やしても、使いこなせなければ価値は無いし。

「ダイアナ、日本政府が導入する『アマテラス』について、何か情報はある?」

 何気なくダイアナに聞いてみた。

「『アマテラス』は独立行政法人AI研究開発機構が開発した最新のAIです。汎用人工知能として多種多様なタスクを処理することができ、尚且つ、常に最新の情報を収集して知識のアップデートを行います。自ら思考して成長するAIを目標にして開発されたとプレスリリースにあります」

 ダイアナは澱みなく答えた。

 へぇー、そうなんだー。自分で聞いておきながら、特に興味ない情報。

 まぁ、私には関係無いか。お役所へ行っても、窓口の人がいなくなる訳じゃないだろうし。

 行政管理って具体的に何をするのか知らないけど、一般市民の生活には影響無いんじゃないの?私には何も関係無い。その程度の認識でいた……。

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