第16話『ピロートーク』
結局、合宿初日は海で遊び、夜は花火で遊んで、プログラミングの勉強なんか全然やらなかった。一体何の為の合宿なんだか。
花火の後でまたみんなお風呂に入って一息ついた。もう夜十時過ぎかぁ……。
今からプログラミングの勉強なんてやっても中途半端にしかできないし、寝るしかない。本当に、何の為の合宿だっていうのよ……。
二部屋分の和室を襖で区切って、男子部屋と女子部屋に分けた。
当然のことだけど、女子部屋は人口密度が高くて窮屈。多田さんは一人で一部屋使えるとか、何か釈然としないんだけど……。
「多田さ〜ん、女子部屋覗いちゃダメですからね!朝まで襖開けちゃダメですよ!」
水辺さんが無駄に大声で忠告しているけど、真面目人間の多田さんは普通に返事をする。
「分かっているよ。そっちこそ、夜更かししないで早く寝るんだよ?先生、頼みましたよ」
襖ごしに聞こえた声は、全く動揺を感じさせない。まぁ、そういう人だと理解している。いわゆる草食系みたいな。
八畳の和室に女子四人と先生。やっぱ狭い。慣れ親しんだ自宅のベッドじゃなく、畳の上に布団を敷いて寝るのも違和感しかない。
こんな環境で安眠できるのか不安でしかないけど、何故か水辺さんと御國さんに挟まれて寝ることに。意味が分からない。
「海江さん、今夜は女子だけで夜通しおしゃべりしようね!」
イヤ水辺さん、何で寝る前にそんな張り切っているのよ?私は夜通しおしゃべりなんて付き合うつもり無いし。
「皆さん、もうそろそろ電気消しますよ?あまり夜更かししないで静かに寝て下さいね?」
緑川先生から軽く注意された。まぁ当然だけど、水辺さんは諦めが悪い。
「先生!せっかくの夏合宿なんですから、部員同士で親睦を深めるのは重要だと思います!」
もっともらしいことを言う水辺さんだけど、そういうの要らないから。無駄でしかない。お願いだからサッサと寝てほしい。
「先生~、眠りにつくまで、ほ~んの少しですから~♪せっかくみんなでお泊まりするんですし~♪」
御國さんまで何かを訴えるような目で先生を見ているし……。何なのよ、この人たちは……。メンドクサイ……。
灯りを消した部屋の中、ヒソヒソ話。水辺さんと御國さんが言うには、お互いのことをより深く知り理解する為には会話が必要なんだとか。それについては理解できるけど、私達がお互いを深く理解する必要性は感じない。
特に興味の無い人と理解しあうことで何のメリットがあるの?煩わしい人間関係を増やすのはデメリットでしかない。
とりあえず、この二人が幼稚園の頃から友達関係だっていうのは話を聞いて分かったけど。
「それでね、まだ私が小学2年生の時にお父さんが事故死しちゃったの」
水辺さんが唐突に、ヘヴィーな話を明るく言う。
「まだ小学2年生の時だよ?お父さんは突然居なくなっちゃったし、お母さんは泣いているしで、私どうしたらいいのか全然分からなかったよ」
それはまぁ、お気の毒というか……。だからといって、私にそんな話をされてもリアクションに困るんだけど……。
「私の家、お花屋さんをやっているんだけどね、お母さんが一人で頑張って店を守りながら私を育ててくれたの。いわゆる母子家庭ってヤツ?」
「あの頃のハナちゃん、全然落ち込んでなかったよね~。周りの人は気を遣っていたけど、全然いつもと変わらなかったし~」
二人の会話から何となく察してしまう。水辺さんは昔からそういう人なのだろう。
「私だってもちろん、お父さんが死んだことはショックだったよ?でも、落ち込んでいてもしょうがないって思ったの。死んじゃった人はもう生き返らないんだから、クヨクヨしていてもしょうがないよね?」
意外と水辺さんはリアリストなのかもしれない。てっきり頭の中お花畑だと思っていたけど。
「でね、ご両親を事故で失った海江さんの気持ちを全部は理解できないかもしれないけど、私にも半分ぐらいは理解できるんじゃないかな……?って。ウチはお父さんがいないから。海江さんももっとたくさん、色んなことを話してほしいの。せっかく同じAI研の部員になったんだから、もっと仲良くなりたいの」
う~~~ん……、水辺さんが過剰にコミュニケーションを求める理由は分かった気がする。だからといって、仲良くなりたいとは思わないんだけど。
「海江さん、ご両親のことは大変だったと思うよ~。でもね~、私達にできることなら何でも相談に乗るから~。ホラ、私達も一応先輩だし~。プログラミングでは海江さんに色々頼っちゃうけど~、他のことでは私達を頼ってほしいかな~って」
頼りない御國さんがそう、気の抜けた声で言う。
はぁ……、メンドクサイ……。頼るとか理解しあうとか、何でわざわざメンドクサイ方向へ話を進めようとするのよ?
私は別に、一人で困らない。自力で解決できないことだけ、必要に応じて解決できる誰かにヘルプを頼めば充分。水辺さんと御國さんには、今のところ、特に頼りにすることが無い。
無駄に馴れ合うだけの人間関係なんか必要無い。そういうのは趣味のサークルとかでやってほしいんだけど。
返答に困っていたら、伽羅さんが小声で割り込んできた。
「フフフッ……。海江さん、頼りにするかどうかは別にして、みんなと仲良くしていてね。私がいなくなっても困らないようにね。フフフッ……」
え……?いなくなるってどういうこと?伽羅さん、AI研を辞めるってこと!?
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