第12話『雑談』

 開発開始から三日経ったけど、今のところ作業進捗に問題は無い。それ程タイトなスケジュールは組んでいないし、部員に無茶振りもしてないから当然だけど。

 協働作業を始めてから、みんな何かやる気が出たのか、水辺さんと御國さん、そして多田さんと伽羅さんも昼休みに部室へ集まるようになってしまった。

 私は誰も居ない部室で静かにお昼ご飯を食べて、余った時間にチャチャっと軽く作業を進めたかったんだけど、部室が無駄に賑やかになっている。まぁ、ノイズだらけの教室に比べたら大分マシなんだけどさ。

「海江さん、今日もお昼はカップヌードルなの?先生も言ってたけど、ちゃんと栄養摂取しなくちゃダメだよ!」

 水辺さんは無駄にダメ出しするのと、食事しながら人にお箸を向けるのを止めてもらいたい。

「ちゃんと栄養摂取してますけど?これ、カップヌードルPROですから」

 そう言って、カップのラベルを見せる。私も一応、なんとなく気にはしているんだから。家庭訪問を機に、普通のカップヌードルじゃなくPROを選んで買うようにした。

「そこ、こだわるところなの〜?海江さんはどうしても〜、カップヌードルじゃないとダメなの〜?」

 今度は御國さんが気の抜けた声を出す。この人は過剰なほど栄養摂取しているように見えるけど、全く活力が感じられない。まさに脱力系ゆるキャラ。

「フフフッ……、まぁいいじゃない。海江さんも意識して、改善しようとしているのでしょう?はじめの一歩……って事で。フフフッ……」

 伽羅さんは相変わらず、何を考えているのか分からない微笑みを浮かべながらそう言った。この人はいつも、お昼はサンドイッチだけで軽く済ませている。

「イヤ、カップヌードルPROなら通常のものより栄養価は高いし……、あ、でも……、イヤ……?う〜〜〜ん……、実際のところどうなんだろう……?」

 多田さんは無理して会話に参加しなくていいです。AI研究部は男子が一人しかいないし、この部室では明らかに浮いている。

 まぁ、部長で三年生だし気を遣ってくれてるんだろうけど、余計なお世話でしかない。

 お昼を軽食で済ませているのは私と伽羅さんだけで、あとの三人はお弁当持参。たぶんそれぞれの母親が作ってくれてるんだろう。

 私の家は両親が存命中の頃から普通にご飯代をもらって、お昼は適当にパンとか買って食べてたし、あまり手作りのお弁当とか家庭の味なんていうのが分からない。私の母親、料理が下手だったし。

 食事なんて極論すれば、生きていく上で必要なカロリーと栄養素の補給なんだから、無駄に手間暇お金をかけてもしょうがない。

 そう考えれば、カップヌードルPROこそ至高となる。私にとって、これこそがベストチョイス。異論は認めない。

 そもそも、食事しながらお喋りするなんて無駄でしかない。喋るか食べるか、どちらかに集中すべき。

 雑談なんか気にせずにサッサと麺も具材も食べ切り、スープを一気に飲み干した。私にとって食事という行為は至ってシンプル。無駄がない。

 休み時間だからといってダラダラ無為に過ごすのは私に合わない。授業で時間を無駄にしているんだから、昼休みは有効活用したい。

「そういえば、例の日乃丸エレクトロニクス謹製量子コンピューター、最初の納品先は日本政府だって話だよ!何に使うんだろうね!」

 水辺さんがまた無駄話を始める。少し興味はあるけど、私たちには関係の無い話だ。

「それね〜、何か行政管理に使うらしいよ〜。とにかく演算速度が凄いし〜。今まで省庁ごとにバラバラなシステム使っていたけど、これからは全部一元管理するみたい〜」

 御國さんの情報、ソースはどこなんだろう?ネットニュース?まぁ、無難な話ではあるけど。

 AI研究部の専用サーバーも民間用としてはハイスペックだけど、量子コンピューターは更に遥か上を行く。そこらの研究施設で使うスパコンよりも超絶ハイスペック。

 行政管理に使うってのも、まぁ悪くはないと思う。新薬開発とか気象予測とか、他にも色々使い道はあるだろうけど、お役所仕事にーってのも分からなくはない。

「僕も気になったからネットで調べたんだけど、独立行政法人AI研究開発機構が新しいAIを提供するそうだよ。行政管理にAIを活用したシステムを構築するらしいね」

 多田さんはそう言って、ペットボトルのお茶を飲んだ。へぇー?AI研究開発機構も関わってるんだ?

 以前から行政にもAIの活用をーって話はあちこちで出ていたけど、量子コンピューターが実用化されたから本気出したって感じなのかなぁ?お役所の都合はよく分かんないけど。

「コードネーム『アマテラス』……。いかにも日本の行政らしくていいじゃない?フフフッ……」

 伽羅さんがそう言って、ミステリアスな微笑みを浮かべる。『アマテラス』って、日本神話の神様じゃないの。そういうプロジェクト名なの?ITとはかけ離れた命名だ。

 どんなプロジェクトを組んでいるのか知らないけど、お粗末な内容にならなければいいんだけどね。行政のやる事は無駄が多いし、IT素人が責任者ってパターンばかり。

 量子コンピューターに最新AIって話からはワクワク感があるけど、絵に描いた餅にならなきゃいいんだけどねぇー。

 まぁ、私には関係無い。残った時間でチャチャっと自分のタスクを進めちゃおう。

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