第13話『得るもの、与えるもの』
予定を少しオーバーしちゃったけど、どうにかスマホアプリの開発も終了。AI研究部のみんなで動作確認してみたけど、特に問題は無い。
まぁ、協働作業やってて何かとイラつく場面はあったけど、全部一人でやる手間を考えれば多少はマシだと思うし。少し文句を言いたいことはあったけど、敢えて言わないであげた。
「凄い!私のスマホでフローラが動いているよ!ねぇ見て見て!ホラ!」
水辺さんは感激と興奮が入り混じった喜びの声をあげて、また私の手を握ってくる。
「私のプリシェも、ちゃんと動いているよ〜♪みんなで頑張った甲斐があったね〜♪」
今度は御國さんがそう言った。スマホの画面を見ながら、本当に嬉しそうな顔をしている。こうして見ると、本当にゆるキャラみたいな人だ。
「メビウス、AI研究部専用サーバーのCPUとメモリとGPUの使用率は?」
多田さんは早速、スマホからAIのメビウスへ指示を出している。
「現在CPU12%、メモリ18%、GPU15%を使用中。動作に支障はありません」
なるほど。サーバーのリソースは充分足りているから、そんなもんだろうと思う。
私達が作ったAIは、独立行政法人AI研究開発機構が配布している雛形をベースにしている。伽羅さんのパンドラは別だけど。
ローカル環境では主にインターフェイスの処理を行い、メインとなる処理はサーバー側で行う仕様。参照するデータベースも馬鹿デカいし、とてもじゃないけどローカル環境に全ては置けない。
そんな訳で大半のデータはサーバーで管理して、出力先として端末へ処理結果を送り、端末側ではアバターとかだけ表示させればいいって訳だ。
こう言うと端末側では大した事やってないみたいだけど、実際はかなりメンドクサイ処理が必要。データの入出力管理やネットワークにメモリの管理、アバターの制御やら諸々、端末側でもそれなりに負荷のかかる処理をやらなくちゃいけない。
キチンと入力された情報に対する出力結果を返さなくちゃいけないから、サーバーとの通信は不可欠。スタンドアローンのお馬鹿なお喋り
AI研究開発機構のサーバーではネット上のあらゆる情報を収集して深層学習し、独自のアルゴリズムで最適な答えを導き出す。サテライトサーバーの設置は自由だけど、それなりのハイスペックを要求されている。
独立行政法人AI研究開発機構としては、AIの雛形を無償配布することで、より多くの人に利用してもらって大量のフィードバックを収集したいらしい。公式サイトは不親切な造りだけどさ。
まぁ、ギブアンドテイクな関係って訳。利用者は様々なデータを提供する代わりにAIを好きなように活用できるし。
AIの個性についても、利用者がパラメーターをいじって好みの性格にカスタマイズできるし、インターフェイスとなるアバターの設定も自由自在。プログラミングの勉強にもなるし、IT教材として考えれば良い素材だと思う。
私も自分のスマホでアプリを起動してみるけど、ちゃんとPCで見るのと同じようにダイアナが表示された。まぁ、当然の結果。
「ダイアナ、実行環境の変化はどう?問題無い?」
そう質問してみたけど、ダイアナはPCで見るのと同じように、スマホの画面から笑顔で答えた。
「環境上の問題はありません。独立行政法人AI研究開発機構のサーバーとも安定した通信が出来ています」
とりあえずネットワークには問題無いし、AI研のサーバーもちゃんとサテライトとして機能しているから、不安要素は無い。
スマホからも使えるようになって利便性も上がっている。ポータブル秘書みたいな感じに色々使い道はありそう。
まぁ、結果的には作って良かったかな。部員の経験不足についても見直すことができたし。だからといって、私は指導するつもり無いけど。
協働作業の中でそれぞれ課題は洗い出したのだから、これからは各自、勝手に勉強してもらいたい。
それから1週間。私たちのAIは問題無くスマホでも利用できている。ちょっとした調べ物をやる程度じゃなく、簡単なタスクなら任せられるので何かと便利。
私が今まで作ったライブラリを最適化させたり、簡単なスクリプトを作らせたりするぐらいなら、ダイアナがあっという間に片付けてくれる。
それでも出力結果の確認は絶対やめない。ダイアナが信用できないって訳じゃないけど、精査は不可欠。
100%自動化できれば楽になるだろうけど、AIをそこまで信頼はしていない。実際、ダイアナの出力したものを確認すると、まだまだ改善の余地があったり、何でそうなるの?と疑問に思うこともたまにある。
根本的にAIのアルゴリズムがもっと洗練されていけば解決するのだろうけど、今はまだそのレベルに達していないと思う。
「あれ……?フローラ、このスクリプトおかしくない?出力結果に抜けてるところがあるよ?」
水辺さんのフローラも、どうやら同じ問題があるらしい。出力結果をちゃんとチェックしている事については感心。
「ハナちゃんのフローラも〜?私のプリシェも、たまに間違えることあるよ〜」
御國さんも同じようだ。まぁ、みんな独立行政法人AI研究開発機構の雛形を使っているし、根本的には同じAIなんだから当然。
「皆さん……、出力結果のチェックは必ずやりましょうね?まだまだAIのアルゴリズムは100%信頼できないですから」
そう言ってやったら、みんな納得してくれたみたい。さすがにコーディング作業はWebで情報収集するように上手くいかない。
補助的なツールとしてAIを使うのは有りだけど、結局は人間が最終チェックしてやらなきゃ。どんな結果が出るか分からないし、とてもじゃないけど確認無しで出力結果をそのまま受け取る訳にはいかない。
AIは便利な子だけど、現状では学習と経験が足りていない。まぁこうして色々経験させて、駄目なところは駄目だと教えてやることが、結果的にはアルゴリズムの改善に繋がると思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます