第11話『地味な作業』

 AI研に専用サーバーが導入されて以降、部室に行く必要性が出てきた。てゆーか、行かざるを得ない。

 今までは学校のサーバーを共用しつつ、独立行政法人AI研究開発機構のサーバーにもアクセスして……って感じだったんだけど、この際だから部の専用サーバーに一本化しようという話になった訳だ。

 ただ、サーバーの環境構築から始めなければいけないので、ちょっとどころか、かなり面倒。

 こちら側でもデータベースを構築したり、AI研究開発機構のサーバーとデータを同期させたりと、やるべき事はたくさんある。

 御國さんのお父さんはサーバーの導入費用を負担してくれたものの、環境構築については勉強を兼ねて自分たちでやってくれだとさ。

 まぁ、導入してくれただけでも有難い話なんだけど、環境構築は結構な手間になるし、そもそも部員でサーバーに関する知識を持っているのは私と伽羅さんしかいない。

 さすがに今回は伽羅さんも手伝ってくれたけど、何とか構築作業を終えて一通り動作確認することができた。

「これで作業は完了ですね……。AI研究開発機構のサーバーとも同期してるし、私たちのAIも正常に機能しています……よね?」

 メンドクサイ作業のオンパレードだったけど、ちゃんと動作確認できて一安心。伽羅さんの有能さが際立っていたけど、この人は一体どこでこれだけの知識と技術を身に付けたんだろう?

「海江さんも伽羅さんもお疲れ様!私のフローラもバッチリ動いているよ!」

 水辺さんがそう言って、また私の手を握ってきた。何かもう、これについては諦めた方が良さそうだ。

「海江さんは〜、サーバーの環境構築もできるなんて、本当に凄いね〜♪伽羅さんは前から凄い人なの分かっていたけど〜、海江さんはまだ一年生なのに、どこでこれだけのスキルを身に付けたの〜?」

 ゆるキャラ……じゃなくて、御國さんにそう聞かれた。

 まぁ私は、個人で色んな仕事を請け負っていくうちに、必要に応じて勉強しただけだし。一々説明するのはメンドクサイのでテキトーに受け流した。

「海江さんも伽羅さんもお疲れ様。二人の作業を見ていて僕も勉強になったよ。プログラミングだけじゃなく、サーバーの扱い方も勉強しなくちゃダメだね」

 部長の多田さんはそう言うけど、本当に勉強として少しでも吸収できたのかは疑わしい。まぁ、敢えてツッコミは入れないけど。



 しばらく様子見したけど、部の専用サーバーは安定稼働している。スペック的にはかなり余裕のあるリッチ構成だし、AI研の五人で専有するのは勿体無いぐらいだ。

 正確に計測してないけど、ダイアナのレスポンスも前より早くなってきた。無駄な通信が減ったし、専用サーバーの有り難さが実感できる。

 色々落ち着いたらAI研のみんなで話し合い、前から要望があったスマホアプリの開発に着手しようということに。

 現状、PCでしか利用できないのは不便だし、いつでもどこでもスマホからAIを利用したいってのは私も考えていた。

 まぁ結局のところ、私のタスクが増えちゃう訳だけど、この際だから部員のみんなにも作業を割り振って、AI研究部全体での協働プロジェクトということにする。これについては部長も伽羅さんも賛成してくれた。

 ただ、私はスマホアプリの開発経験もあるし、伽羅さんも対応可能みたいだけど、他の部員はあまり詳しくないらしい。

 さすがにゼロから説明するのもメンドクサイし効率悪いし、レクチャーする時間も惜しい。それぞれのプログラミングスキルに合わせつつ、勉強も兼ねて出来そうな作業を割り振る。

 水辺さんは意外と几帳面な性格みたいだし、0か1かをキッチリ判別したがるようなのでテスト担当。

 御國さんはワリとプログラミングセンスがあるけど、スマホアプリの開発経験は無いから、簡単な処理をたくさんこなしながら勉強してもらう。

 多田さんは地道にコツコツやるタイプなので、細々こまごまとしたメンドクサイ単純作業担当ってことに。

 あとは私と伽羅さんで設計から基幹部分のコーディングや、全体のまとめ役を担当する。この体制なら何とかなるでしょ。

 勉強も兼ねているので、みんな作業にAIは使わせない。AIにコーディングしてもらっても、自分たちで精査やバグ修正できないのでは話にならないし。

 特定の誰かに大きな負担がかからないよう、伽羅さんと話し合って役割分担した。他の人はチームでの開発経験なんて無いだろうし、無駄な文句は言わせない。


 みんな無駄話もせず、黙々と与えられた作業に集中。ちょっとサーバーの騒音が気になるけど、くだらない無駄話を耳にするよりは100倍マシ。

「おぉ〜ッ!?とうとう完成しちゃったよ!」

 唐突に水辺さんが意味不明な発言。テスト担当が何を完成させたのよ?訳が分からない。

「完成って何がですか?水辺さんは今、モジュールのテスト中ですよね?」

 ちょっとイラつきながら質問すると、水辺さんは否定するように手をパタパタ振る。

「イヤ、そうじゃないの!日乃丸ひのまるエレクトロニクスが開発中だった量子コンピューター、遂に完成したってニュースサイトに出てるの!」

 え?マジで!?てゆーか、この人はテストもやらずに何でニュースサイトなんか見てるのよ!?

 御國さんも多田さんも何故か水辺さんのところに集まって、一緒にPCの画面を見ながら何か言ってる。

 そんな風に一ヶ所に集まらなくても、ニュースサイトなんかそれぞれ自分のPCで見ればいいでしょうに……。無駄でしかない……。

 呆れながら何気なく伽羅さんの方へ視線を向けると、この人は全く意に介さずって感じで、いつも通り澄ました顔で自分の作業に集中していた。

 すると私の視線に気付いたらしく、伽羅さんはニッコリ微笑む。私は私で、愛想笑いを返す。私は少し顔が引き攣っていたかもしれない。

 まぁ、しょうがないか。量子コンピューター完成なんて大ニュースが出ちゃうと。私も後で、ニュースサイトをチェックしておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る