第10話『強引な来客』

 多数決で本当に家庭訪問をすることに。抜き打ち生活検査と言った方が正しいのかもしれない。

 私の家に来たからって別に何も面白いことなんて無いのに、何故か先生もAI研のみんなも無駄に張り切っている。

 まぁ、一人暮らしの女子の家ってことで、多田さんだけは遠慮してくれたのがせめてもの救いか。別にどうでもいいけど。



 移動中も水辺さんから無駄に話しかけられ軽くイラついたけど、とりあえず無事に帰宅した。家に学校の人が来るなんて何年振りだろう?

「おじゃましまーす……って、え……?」

 あれだけ無駄に喋る水辺さんが、何故か絶句した。

「あらあら〜、これは〜、ちょっと〜……」

 いつも能天気な御國さんまで言葉を詰まらせている。

 ここしばらくはゴミを出しそびれていて、全部玄関に溜め込んでいた。掃除も洗濯も全然していないし、みんな我が家の惨状を見てドン引きしているらしい。

「海江さん……、とりあえず、お掃除しましょう!ハイ、みんな手伝って!」

 緑川先生は顔を引き攣らせながらも号令を出す。別に掃除ぐらい自分でやるから、手伝ってくれなくてもいいのに。今はただ、やる気が出ないってだけの話。


「これ、いつからこんなにゴミを溜めていたの?ちょっと酷いね……」

 文句があるなら余計な事をやらないでほしい。でも、水辺さんはテキパキとゴミを分別している。この人、意外と几帳面な性格らしい。

 伽羅さんは無駄に喋らず、済ました顔で掃除機を使っている。

 あれ……?掃除機は家の中で行方不明になっていたんだけど、伽羅さんは一体どこで見つけたんだろう?

「海江さ~ん、私は洗濯物片付けちゃうね~。ゴムが伸びたり擦り切れてる下着は捨てちゃっていいよね~?」

 御國さんはそう言うけど、捨てるかどうかは私が判断するから、ちょっと待って!

「海江さん……、カップラーメンの空き容器が大量にありますけど……、普段どんな食生活を送っていたのでしょうか……?」

 今度は無駄巨乳が台所で何か言ってる。あ~~~ッ!もうッ!!だから他人を家に入れるのは嫌だったのよ!!



 とりあえず、家中掃除して洗濯物も片付けて、ゴミもキッチリ分別して整理した。無駄に疲れたけど、まぁ……、私一人じゃここまで徹底的にやらなかったと思う。

「ようやく家の中がキレイになりましたね〜……。こんなに疲れる掃除は、私も初めてでしたが……」

 無駄巨乳が額の汗を拭いながら、そう呟いた。

「海江さん……、女の子の一人暮らしなんだから、掃除洗濯はちゃんとしようね……」

 水辺さんも疲れ果てたのか、何かグッタリしている。この人のこういう姿は初めて見た。

 すると御國さんが私の前に来て、

「お掃除もお洗濯も終わったことだし〜、今度は海江さんをキレイにしちゃいましょ~う♪」

 なんて失礼なことを言う。私はちゃんと、毎日シャワー浴びてますけど?人を汚物みたいに言わないでもらいたい。

「イヤ、私は毎日シャワー浴びてキレイにしてますけど?」

 そう反論してやったんだけど、御國さんはカバンからブラシやヘアゴムなんかを色々取り出した。

「ダメだよ~、海江さんは髪も全然ブラシかけてないでしょ~?いつも寝癖ついてるし毛先も荒れてるし~。海江さんって可愛いんだから、身だしなみはちゃんと整えないとね~♪」

 なんて、能天気な笑顔で御國さんは言う。そういえば……もう随分長い間、美容室には行ってない。いつも母親が美容室の予約をしてくれてたし。

 私は元々おしゃれとか気にしなかったし、学校の制服以外は無頓着で、家にいる時は下着姿がデフォルトだ。

「そうだよ海江さん!素材は良いんだから、もっと女の子らしく見た目を気にするべきだよ!」

 いつの間にか復活した水辺さんが、御國さんの意見に同調する。また何かメンドクサイことになってきちゃったなぁ……。



「出来たぁ~♪海江さん、この髪型の方が絶対イイよ~♪」

 私の癖毛は、御國さんの手入れによってツインテールにされてしまった。鏡を見せられたけど、まぁ……悪くはない……かなぁ……?

「うん、絶対この方が可愛いよ!あとは……、少し前髪切ってみる?」

 水辺さんはそう言うけど、それだけは断固拒否する。どうせカットするなら、ちゃんとした美容師さんにやってもらいたい。

「とりあえず、これ以上は結構です。有難うございました」

 いつも洗いざらしでドライヤーもかけず、自然乾燥で済ませていたんだけど、こうして一手間加えるだけで結構変わるのが分かった。

 伸び放題荒れ放題でも気にしていなかったけど、今後はちょっと、自分でやってみようかなぁ……?

「もう時間も遅くなりましたし、今日はこの辺で失礼しましょうか。でも海江さん、インスタントばかりじゃなく、ちゃんとしたご飯を食べて下さいね?」

 無駄巨乳に無駄説教された。私はカップヌードルがあれば、それで充分なんだから。余計な心配しないでほしい。

「ハイ。みなさん、今日は有難うございました」

 一応、感謝はしている。一人でやってたらもっと時間がかかっただろうし、そもそもやる気が出るのがいつになるかも分からなかった。

 すると、水辺さんがまた笑顔で私の手を握ってきた。

「ねぇねぇ、海江さんのこと、これからは『アイちゃん』って呼んでもいい?」

 それは……抵抗がある……。そもそも私は、自分の『アイ』という名前が嫌いだ。

 うちの親はどういうつもりで、漢字ではなく片仮名の『アイ』にしたのか?普通に『愛』って意味なんだろうけど、何か恥ずかしくて気に入らない。

「スミマセン、今まで通り苗字でお願いします」

 私がそう言うと水辺さんは残念がったけど、これだけは譲れない。馴れ合いたくない気持ちも変わらないし、キチっと線引きしておきたい。



 みんなを玄関で見送って、ようやく一人になれた。何か無駄に疲れたけど、みんなのお陰で我が家がキレイになったのは事実。

 あぁ、そういえば御國さんからブラシやヘアゴムをたくさんもらっちゃった。何か飾りが付いたのや、色の違いもアレコレある。こんなにたくさんは必要無いんだけどなぁ……。

 二つに分けて、左右で結ばれた髪を触ってみる。結び目から毛先に向かって、指を滑らせた。御國さんが丁寧にブラッシングしたので、全然引っ掛かることも無い。

 うん……、まぁ、これはこれで良いかな。

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