第9話『Table talk』

 授業も終わって放課後。水辺さんと御國さんは有言実行、本当に私を迎えに来た。

 そんなの無視してサッサと帰りたかったんだけど、ホームルームが無駄に長引いたせいで捕まった。無駄巨乳の無駄話。

 勢いに負け、半ば強引に手を引かれて部室へ強制連行されてしまう。この人たちは何でそう、無駄に張り切っているのだろう?

 訳も分からず部室に辿り着くと、水辺さんは意気揚々とドアを開いた。

「ジャジャーン!海江さん見て!これ、AI研専用のサーバーが届いたんだよ!」

 部室に入ったら、得意満面に水辺さんがそう言った。

 はぁ?何で?これ、マジでデータセンターにあるような、業務用のサーバーじゃないの?

 いつの間にAI研の部室へ設置されたのか知らないけど、これ一揃い整えるのにいくらかかっているのか……。パッと見た感じ、余裕で億は超える構成だと思うんだけど……?

 すると、部長の多田さんが誇らしげに説明する。

「有難い事にスペックは申し分無い、最高の環境が整ったよ。今までは学校のサーバーを共用させてもらっていたけど、これからはAI研究部内で不自由無く使えるからね。これも全部、御國さんのお陰だよ」

 そう言われたけど、何で御國さんのお陰なの?意味が分からない。

「えっと……、御國さんのお陰っていうのは、どういう事ですか?」

 こんなの、どう考えても高校生が買える代物じゃない。部費で調達するってのも無理がある。

 すると御國さんが、照れくさそうにこう言った。

「前からお父さんにお願いしていたんだけど〜、ようやくサーバー買ってもらえたの〜♪AI研も部員が増えたし〜、そのお祝いに〜って、おねだりしちゃった〜♪」

 はぁ……?おねだりしたって、これ全部でいくらすると思ってるの!?余裕で家一軒買ってもおつりが出るぐらいはするでしょ!?

「えッ!?イヤ……、おねだりって……、えぇッ!?」

 ビックリして言葉を失ってしまったら、今度は水辺さんが説明する。

「あのね、詩穂の家は超大金持ちだから!詩穂のお父さん、会社をいくつも経営しているスーパーエリートなんだよ!詩穂が入学した時から、学校にたくさん寄付金出してるしね!」

 そう言われたけど、別に水辺さんが得意げに言うことじゃない。御國さんも無駄に照れているみたいだ。

 でも……、これは確かに有難い。学校のサーバーを共用させてもらうと、リソース不足で処理が重いし、何かと不便に感じていた。

 AI研専用サーバーがあれば、開発環境的に何かと都合が良い。色々と作業が捗るかもしれない。

 すると、後ろから伽羅さんが私の両肩に優しく手を置く。

「海江さん、今までバタバタして忙しかったでしょう?遅くなっちゃったけど、今日は海江さんの歓迎会をしようって、みんなで話し合って決めたの。勿論、参加してくれるでしょうね?フフフッ……」

 ちょっとビックリしちゃったけど、伽羅さんは相変わらず、優しい微笑みを浮かべている。この前、部室で軽く言い合ったことは気にしていない……のかなぁ?

「あ……、ハイ……。まぁ、私は構わないですけど……」

 何か雰囲気に飲まれちゃったのか、そう自然に返事をしてしまった。参ったなぁ……。



 私の歓迎会は、学校近くのファミレスで開催された。さすがに部室でパーティーは出来ないだろうし。

 ファミレスに来るなんて何年振りだろう……?小学生の頃までは家族で外食する機会もあったけど、私が六年生になった辺りでそれも無くなった。

 その頃から両親の仕事が忙しくなったのか、徐々に家族が揃う時間も減り、会話も減って、関係性が希薄になっていった。

「それじゃあ、部長!乾杯の音頭をいっちゃって下さい!」

 パリピみたいなテンションの水辺さん。この人はこういう場が好きなんだろうな。

 乾杯とは言っても私達は高校生だし、ドリンクバーのジュースしか飲めないんだけど。何故か着いてきた緑川先生も、お酒ではなくジュースを選んだみたい。

「うん。海江さん、遅くなったけど改めてAI研へようこそ!部員一同歓迎するよ!それじゃあ、海江さんの入部を祝して乾杯!」

 多田さんはそう言って、オレンジジュースの入ったグラスを掲げた。他の人もそれぞれ、ジュースが入ったグラスを掲げる。

「あ……ハイ……、乾…杯……」

 最後に主役の私がグラスを掲げると、みんなグラスをカチンと合わせてくる。

 これで良かった……のかなぁ?私、こういうの初めてだから全然分からないけど……。

 テーブルにはピザやフライドポテトなど、軽食が次から次へと並べられる。まぁ、みんな家に帰ってから普通に晩ご飯を食べるのだろう。

 カップヌードル以外を食べるのはあまり気が進まないけど、とりあえず私もポテトをつまんでみた。揚げたてらしく、案外美味しい。

「海江さん、食べたいものがあったら遠慮しないで追加注文していいからね!海江さんは痩せてるから、お肉とかたくさん食べた方がいいよ!」

 水辺さんは少し言葉を遠慮してもらいたい。たくさん食べて御國さんみたいになったらどうするのよ?

「海江さんは〜、痩せてて背が小さいから可愛いよね〜♪ダイエットとかしてるの〜?」

 御國さんがピザを食べながら質問してきた。この人はダイエットなんか全然考えていないのだろう。

「私は……別に、ダイエットなんてしてませんよ。必要な時に必要な分を食べるだけですから」

 普通にそう答えたら、無駄にみんなの好奇心を刺激してしまったらしい。

「え、そうなの?普段どんな食生活をしているの?」

 水辺さんにそう聞かれたけど、伽羅さんが微笑みながら余計なことを言う。

「カップヌードル、でしょう?フフフッ……」

 それを聞いた緑川先生が、

「ダメですよ海江さん。成長期にしっかり栄養摂取しないと、体の基礎が出来ませんからね。海江さんは一人暮らしですから、キチンとした食生活を送っているのか、先生も心配しているんですよ?」

 なんて言ってきた。余計なことを言わないでよ、この無駄巨乳は……。

 案の定、私が一人暮らしをしているという話題にみんな食いついてきた。

 何で一人暮らしなのか?どんな家に住んでいるのか?なんて、無駄に質問ばかりが飛んでくる。私の生活環境なんて、あなた達にはどうでもいい話でしょうに……。

 さすがに両親が死んだからだと言うと、みんな色々と察してくれたらしく、急に静かになっちゃった。少しは落ち着いてくれたみたいで助かる。

「先生、私に名案があります!海江さんちの家庭訪問をしましょう!」

 少しは落ち着いた空気を、水辺さんが唐突にぶち壊した。

 はぁ?何で家庭訪問なのよ!?全然意味が分からない。家に帰っても我が家には保護者が居ない。家庭訪問なんかする意味無いでしょ!?

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