第8話『部活動』
私は間違ってない。そして伽羅さんの言った事も間違ってない。人それぞれ考え方が違うのだから、意見が合わない場合もあって当然。
でも何かスッキリしない。もっと何か反論してやるべきだったかなぁ……?
ううん、私はメンドクサイ議論なんかはやりたくないし、論破してやろうとも思わない。意味も無くレスバしたがるのは知能の低い連中。
ただちょっと、心に引っ掛かるというか、意識しないようにしても、どうしても伽羅さんの微笑みとセットで言われた事を思い出してしまう。
何でこんなに気になるんだろう?普段からどうでもいいノイズはサラッと聞き流すようにしているのに、伽羅さんとの会話は鮮明に思い出す事が出来る。
私の心に伽羅さんの言葉が響いたから?それは無い。根本的にロジックが違う。あの人と私は相容れない。
何だか部室に行くのがメンドクサくなって、放課後そのまま家に帰った。部室に行けば、何かとヘルプを頼まれて作業を中断されるのもウザいし。
せっかくAIをいじるのが面白くなってきたのだから、自宅で作業した方が絶対効率良い。そもそも部室に行く必要性が見当たらない。
やっぱ家で作業している時が一番快適。邪魔する者が誰もいないし、私の為に最適化された環境になっている。
コーディングに集中している時は無駄な事を考えたくない。部屋に一人でいるのが一番楽だ。元々私はこういう性格だったのだから当然だけど、集団行動とか協調性とかメンドクサイのは嫌。
ストレス抱えて周りに合わせる必要性を感じない。気が合わないなら一緒にいる意味が無い。単なる無駄でしかない。
リソースは限られているのだから有意義に使うべき。何で私がAI研の面倒見てやらなきゃいけないのよ。私より優秀で年上の伽羅さんがやるべき事でしょ。お門違いもいいとこだ。
誰にも邪魔されず作業に没頭していたけど、空腹だけは容赦なく襲って来る。仕方がない、食事休憩にしよう。
PCは起動したまま、台所へ行ってヤカンを火にかける。今日の晩ご飯も当然カップヌードルだ。
一番のお気に入りはチリトマト味だけど、毎日毎食同じ味ばかりは食べない。今夜はカレー味をチョイス。
お湯が沸騰するまで手持ち無沙汰になるけど、敢えてスマホはいじらない。目を休ませる時間も必要だ。焦点を絞らずにボンヤリとヤカンを眺める。後で目薬使おう。
お湯が沸騰するまでの間に頭の中で作業を振り返り、今日どこまで進められるかを考える。
AI研の人は自分達で工程管理すらできないと思う。適当にダラダラやるのは能率悪いって、認識を改めてもらいたい。
はぁ……、何かダルい……。何でこんなメンドクサイ事になっちゃったんだろう……。
沸騰したお湯をカップに注いでスマホのタイマーをスタート。こぼさないよう気をつけて、慎重に部屋まで持って行く。
「ダイアナ、今日の私の作業進捗は?」
「現在94%ですね。あともう一息で予定のタスクは完了します。適度に休憩を取りながら頑張りましょう」
ダイアナはニッコリ微笑んで、私の質問に答えた。あと残り6%かぁー。終わりが見えると安心感がある。
まだ夜の八時半か……。時間的にも寝るまでは余裕があるし、AI研用のマニュアルをアプデしようかな……?
ううん、ついこの間アプデしてやったばかりなんだし、あの人達にこれ以上世話を焼く義理は無い。
当分の間は部室に行くのを止めにして、何かあっても自力で対処してもらおう。私が行かなくても伽羅さんがいる訳だし、何も問題無いでしょ。
私のリソースは他人の為にある訳じゃない。何に労力を費やすかは私が決める。
部室に行くのを止めて1週間目の朝、教室に入ろうとしたところへ、唐突に水辺さんと御國さんが現れた。
「海江さん!どうしたの!?部活来なくなっちゃったから、みんな心配しているんだよ!?」
ヘッドホン越しにも聞き取れる程の声量で、水辺さんからそう言われた。
心配している?何を?あなた達は私がヘルプしてあげない事で困ってるだけなんじゃないの?超メンドクサイ。
「別にどうもしてません。部活動は続けてますよ。自宅で作業した方が集中できて効率良いですから。別に部室へ集まらなくても、みんなノートPC持っているから好きな場所でコーディングは出来ますよね?」
一応ヘッドホンを外して、そう素っ気なく答えてあげたけど、水辺さんは納得していないようだ。
「そんなのダメだよ!AI研の部活動はちゃんと部室でやらないと!みんな集まって一緒に考えたり相談したり、悩みながら一緒に頑張るのが部活動だよ!」
水辺さんはそう力説するけど、私が一番嫌いなタイプだ。こういう人に関わるのは凄く嫌なんだけど。
今度は御國さんが、相変わらずトロくさい事を言う。
「海江さんはす〜っごくプログラミング出来る人だから〜、一人で何でも出来ちゃうし〜、私が分からない事を何でも教えてくれるから頼っちゃったけど〜、もしかしてそれが負担になっちゃったのなら、本当にゴメンナサイね〜。私、もっと自分で出来るように頑張るから、放課後は部室に来て欲しいな〜って。ダメ……かなぁ〜?」
そう言われたけど、1ミリも信用できない。私に面倒かけていたのは自覚したみたいだけど、だからといって、そう簡単に改善されるとは思えない。
「とにかく、私は一人の方がやりやすいんで。何か分からない事があったら伽羅さんに相談して下さい」
そう言ってやったんだけど、水辺さんと御國さんは教室の中まで着いてくる。
何なの、この人たちは?私が言ったことを理解できないの?しつこいんだけど?
「海江さん!元気なら放課後は部室に来て欲しいの!海江さんに見て欲しいものがあるから、今日は絶対に来てね!私たち、放課後迎えに来るよ!」
水辺さんは私の腕を掴んで、真剣な眼差しでそう言った。言いたい事はそれだけらしく、二人は教室から出て行ってくれる。
はぁ……、メンドクサイ……。何なの、あの人は……?幼稚園じゃあるまいし、送り迎えなんていらないんだけど……。
大体、見て欲しいものって何なのよ?わざわざ見に行く価値あるの?どうせロクでも無いものだと予想はつくんだけど。
教室に上級生が来て訳の分からない事を言ったせいで、クラスの人から無駄に注目されてしまったし。はぁ……、メンドクサイ……。
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