第7話『衝突』
二人しかいない部室に、私が麺を啜る音と、伽羅さんがタイピングする音だけが響いている……。
伽羅さん、何をやっているんだろう……?いつも放課後に見るのと同じ、澄ました顔で軽快にキーボードを打っている……。
何だかよく分からない、異質な存在感を持っている人だ。プログラミングスキルが高いだけの人じゃないのは、私にもハッキリ分かる。
そして私が麺もスープも完食したタイミングで、見計らったように伽羅さんはタイピングの手を止めて話しかけてきた。
「フフフッ、学校でカップ麺を食べている人を見たのは初めてよ。私も今度、海江さんのマネをしてみようかしら?フフフッ……」
伽羅さんは、そう言って微笑んだ。
「はぁ……、まぁ、私はカップヌードルが主食なので……。家では毎日食べてますし……」
何か、この人に話しかけられると無視出来ない。理由が分からないけど、何故かどうしても返事をしてしまう。させられてると言うべき?
「好きなものを食べていると幸せを感じるわよね♪でも海江さん、好きなものだけじゃダメよ?ちゃんとバランスよく栄養摂取しなくちゃね。フフフッ……」
今度は何か、忠告めいた事を言われてしまった……。大きなお世話と言いたいところだけど、何故だか言えずに我慢する。
「海江さん、人間関係も同じじゃないかしら?好きな人だけ相手をしているのは楽でしょうけど、時には気に食わない人とも関わる必要があるのじゃないかしら?フフフッ……」
え、何?この人は急に何を言っているの!?私の事を何も知らないくせに、何でそんな事を言うのよ!?
「伽羅さん……、それ、どういう意味ですか……?」
食生活の話から急に人間関係の話になっちゃって、ちょっとカチンときた。私は無駄な人間関係なんかに貴重なリソースを
「海江さんを見ているとね、周りの人に壁を作っているのが分かるのよ。絶対心を許さない!って感じにね。学校で学ぶのは先生の授業だけじゃないわよ?どちらかと言うと、他者とのコミュニケーション、社会性を身に付ける事が重要だと私は思うわ。お節介かしらね?フフフッ……」
伽羅さんはそう言って、ニッコリ微笑んだ……。何なの、この人は……?
優しい言葉遣いだけど、何か癪に触る。今まで我慢していたけど、急にイライラしてきた。
「何でそんな事を言うんですか?私は中学生の頃からプログラミングの仕事やってますし、ちゃんとした会社の人を相手にコミュニケーション取ってますけど?学校で相手をする必要の無い人と関わるなんて、単なる時間の無駄じゃないですか?」
何かちょっと、思考がまとまらない。今の私は感情的になっているかもしれない。伽羅さんの教え諭すような物言いが、説教くさく感じられて反発したかった。
ちょっと強い言い方で反論したけど、伽羅さんは全然表情を変えない。上級生とは言っても私と二年しか違わないのに、あの無駄巨乳よりもずっと大人に見える……。
「海江さん、プログラミングのお仕事で大人を相手にコミュニケーションを取っていた事は、とても有意義な経験でしょうね。でも、あなたは今高校一年生として、この学校に通っているのよ?同世代の人達との交流は、きっと将来、かけがえのない思い出になるはずよ。後悔先に立たずなんて言うでしょう?今出来る事、今しか出来ない事は、決して無駄なんかじゃないと私は思うわ。時間は限られているのよ?フフフッ……」
優しい微笑みは崩さず、とても落ち着いた雰囲気で伽羅さんはそう言った。
え、何?この人は私に、その他大勢のモブキャラと仲良くさせたいってーの?私は別に、無駄な友達なんて必要ないし、メリットの無い人間関係なんか築くつもりは無い。
何か言い返したい。不満をぶつけたい。でも、適切な言葉が出てこない。私は今、何についてイライラしているのか?何に腹を立てているのか?
伽羅さんの発言におかしなところは見つからない。理不尽な事を言ってる訳でもないし、筋は通っている。
それに対して私の発言はどうか?別におかしな主張はしていないし、何も間違ってないと確信している。無駄なことは無駄でしかないという、考えるまでもなく当たり前の事を言ってるだけ。
お互いに正しい主張をしているけど、方向性が違うから意見が合わないだけの話。このままじゃ、何を言っても話は平行線で議論にすらならないだろう。
「伽羅さんの言うことも理解は出来ますが、私のポリシーには反します。人それぞれって事でいいんじゃないですか?」
素っ気なく、それだけ言って席を立つ。不毛な議論は何も生み出さない。メンドクサイだけじゃなく、無駄にイライラするだけだ。
サッサと荷物をまとめて部室を出ようとしたけど、伽羅さんは引き留めようともしないし、何を考えているのか分からない微笑みを崩さない。一体何なの、この人は……?
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