第6話『計画実行』

 部活も終わり、ノイズと雑踏を潜り抜け、誰もいない家に帰宅。家中散らかったままだけど、掃除する気力も無い。

 とりあえず、夕飯としてカップヌードルチリトマト味を食べながら、ダイアナの動作テストをする。

「ダイアナ、今日の私の作業進捗は?」

 私の問いかけに、ダイアナはニッコリ微笑みながら答えた。

「予定の72%ですね。少し遅れていますが、大丈夫ですか?」

 72%かぁー……。全然少しじゃないし。大分遅れているじゃないの……。やっぱ、ヘルプを頼まれて作業中断されちゃうのが痛いなぁ……。

 まぁ、仕事じゃなく部活だし、納期は無いんだから別にいいけどさぁ……。

 みんなからのヘルプ要請をガン無視して作業に集中したいんだけど、何か伽羅さんの視線がどうしても気になってしまう。

「ダイアナ、伽羅さんってどんな人だと思う?」

 部室では基本的に、ダイアナへの音声入力をオンにしている。拾い集めた会話内容から多少は分析出来るはずだ。

 するとダイアナは、淀みなく答える。

「伽羅さんはあまり自己主張をしない、周囲に配慮する人物だと思われます。AI研究部内で部員同士が円滑なコミュニケーションを取れるよう、配慮した言葉を選んでいるようですね。自分からは積極的に関わろうとせずに、第三者目線で観察する傾向があります」

 ダイアナは感情抜きで客観的に会話内容を分析しているから、恐らく正しい。

 まぁ、あの人ぐらいプログラミングスキル高いと、どうしても高みの見物になっちゃうんだろうけど、私を手駒みたいに扱わないでもらいたい。

 現状、ヘルプ要員の使いっ走りみたいな感じだし、先輩後輩のメンドクサイ関係は嫌なんだけどなぁ……。

 はぁ……、何かシンドイ……。メンドクサイ人間関係について考えること自体がメンドクサイ……。

 カップヌードルのスープを一気に飲み干す。栄養補給完了。

 とりあえず、今日予定していた作業だけは片付けておこう。自宅で作業している分には誰も邪魔しないんだから。

 AI研用に作ったマニュアルも、少しアプデした方がいいかなぁ?あの人達の理解度に合わせた内容じゃないと、またヘルプ頼まれちゃう訳だし。何で私がこんなメンドクサイ事をやらなくちゃいけないのよ……。



 学校の授業時間は退屈だ。大抵のことは教科書を読めばすぐ理解出来るし、わざわざ先生から教わる必要が無い。

 ダルい体育以外は、どの教科も変わらない。ただ適当に聞き流すだけ。手っ取り早く実力テストでもやって、授業免除とかしてくれたらいいのになぁー。こんなのは時間の無駄でしかない。


 休み時間に入ると、すぐにヘッドホンを使って周囲のノイズをシャットアウトする。

 学校に復帰してしばらくは、何人か私に話しかけてくる人がいたんだけど、私が頑として相手をしないでいたら、こちらの意図を汲み取ってくれたみたい。無駄なやり取りをしなくて済むのは助かる。

 みんな仲良く元気良くーなんて、幼稚園じゃあるまいし。同級生だからといって真面目に相手をする必要性を感じない。



 お昼休み。AI研に入部して以降、部室の出入りは自由になったので、お昼ご飯は部室で済ませるようにした。教室はあまりにもノイズが多くて嫌になる。

 他の部員は多分、それぞれの教室で過ごしているのだろう。この時間帯は私一人で居るのがデフォルトになっていた。

 フッフッフッ……、今日こそは計画実現の日……。学校でお昼ご飯にカップヌードルチリトマト味を食べてやるんだ!

 この計画の為にわざわざ保温出来る水筒を買って、自宅からお湯を持って来ている。準備は万端、いざ実行。

 カップの蓋をめくってお湯を注ぎ込む。朝自宅で入れた時より湯気の感じが弱くなっているけど、そんなに冷めてはいないはず。

 スマホのタイマーで三分間キッチリ計測する。秒単位のズレも許されない。今か今かと待ち遠しい。

 そしていよいよカウントダウンに入った。でも焦りは禁物。蓋を開ける体勢で待ち構える。……5、4、3、2、1、0!

「あら海江さん、部室でお昼ご飯なの?フフフッ……」

 丁度タイマーが鳴ったタイミングで、伽羅さんが部室に入ってきた。あぁ、ビックリした……。

「あ……、ハイ……、そうですけど……」

 昼休みは誰も部室に来ないと思っていたので、完全に意表を突かれた。でも、この人の相手をするより、今は私のカップヌードルだ。

 すると、伽羅さんも状況を理解してくれたらしい。

「私の事は気にしないでいいわよ。早く食べないと、麺が伸びちゃうでしょう?フフフッ……」

 そう言って、伽羅さんは自分の席に座ってPCを起動し始めた。何をしに来たのか分からないけど、とりあえず助かった。私は私で、早くお昼ご飯を済ませよう……。

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