第4話『溜息』
目を覚ましたら、私はAI研の部室ではなくベッドの上に居た。あれ……?ここは……保健室?だよね?
カーテン越しに窓から差し込む光が、既に夕方になっているのを教えてくれる。
グラウンドの方では運動部が何か練習でもしているらしく、威勢の良い掛け声が色んな方向から聞こえていた。
あの後、先生達が保健室まで運んでくれたのかなぁ?私は別に、床の上で仮眠しても平気なんだけど。
ベッドから降りて仕切りのカーテンを開くと、緑川先生は保健室の先生と雑談していたみたいだ。
「あら海江さん、目が覚めました?海江さんったら、部室の床でグッスリ眠りこんじゃったから、みんなで保健室まで運んできたんですよ。少し無理していましたか?」
緑川先生が心配そうな顔で、そう言った。やっぱそうなったのか。私は別に、放っておいてもらって構わなかったのに。
「私なら全然平気ですよ。久しぶりにベッドで眠ってスッキリしましたから。早く部室に戻りましょう」
ダイアナにみんなの相手を任せちゃったし、あの後どうなったのか気になる。もうみんな帰っちゃったかな?
先生と一緒にAI研の部室に戻ると、みんなまだダイアナと会話していたみたいだ。あれから……3時間経ったのか。
「海江さん、この子凄いね!話し方もスムーズだし会話のバリエーションも凄く多くて、聞いた事は何でも答えてくれるね!」
どうやら水辺さんはまだ興奮状態みたいで、また私の手を握ってきた。みんなダイアナを相手に、一体どんな会話をしていたんだろう?
「ダイアナ、この場所での会話ログを表示して」
私がそう指示すると、画面に凄い量のログが表示された。私が保健室で眠っていた間に、結構な量の質疑応答があったみたいだ。
すると御國さんが、
「会話内容をテキストで残せるの〜?それ、便利だねぇ〜。私のプリシェもそれ、実装したいなぁ〜」
なんて言った。
……え?ログの保存なんて基礎中の基礎でしょ?イヤ、まさか今更気付いたの!?
「えっと……、今までログは残さなかったんですか?」
私がそう聞くと、御國さんはポケ〜っとした顔で返事をする。
「会話内容は〜、音声データで保存しているんだけど〜、ストレージを圧迫しちゃうから、一ヶ月以上経ったデータは消去するようにしてあるの〜」
はぁ?イヤ、そりゃあ音声データをそのまま保存したら、ファイルサイズが大きくなるのは当たり前でしょ。
「イヤ……、音声そのものを保存しないで、テキストに変換してログを残せば、容量節約出来ますよね?残しておきたい音声データも、必要な部分だけトリミングしてアーカイブしちゃえばいい訳だし」
私がそう言うと、みんな互いの顔を見て困ったような表情を見せる。
え、何?対話コミュニケーション可能なAIを作れなんて偉そうな事を言っておきながら、そんな事も分かってないの!?てゆーか、出来ないの!?
「イヤ〜、実は、会話内容をテキストデータに変換する処理が上手く出来なくってねぇ……。海江さんのノウハウを部内で共有してもらえると、凄く助かるんだけど……」
多田さんは最初の印象とはガラッと態度を変えて、妙に
嘘でしょ……?何なの、この人達は……。プログラミングスキルが有るのか無いのか、分からなくなってきたな……。何か凄いチグハグな感じがする……。
とりあえず、時間も遅いのでその日は解散したんだけど、私は正式にAI研の部員として迎え入れられて、次の日からは私が自力で作ったダイアナの機能やら何やら、他の部員に解説する羽目になる。
AI研の人に色々と話を聞いてみると、みんなプログラミングスキルは一定レベルに達しているみたいだけど、伽羅さん以外は明らかに私より格下だった。
まぁ、私は小学生の頃からプログラミングやっているし、個人で引き受けた仕事もたくさんあるんだけど、何で上級生にレクチャーしてやらなきゃいけないのよ……。メンドクサー……。
そもそもこの人達は、ドキュメントをロクに書いていない。仕様書も設計書も書かず、簡単なメモ書きしか残していないと言う。
えーと……、要するに、プログラミングは出来るけど仕事は出来ないレベルって事じゃないの……。最悪だ……。
イヤ、まぁ、やっぱ高校の部活動レベルだと、この程度なのかぁ……。期待はしていなかったんだけどさぁ……。
無駄巨乳もAI研究部の顧問をやっているってーのにプログラミング知識がほとんど無いし、部として創設されたのも去年からなんだとか。
プログラミングスキルについては伽羅さん以外、素人に毛が生えた程度でしかない。わざわざレクチャーするのも超メンドクサイんだけど?
とりあえず、私が作ったライブラリで、部内で共有しても構わないモノは提供してあげる事にした。ゼロから説明するのもメンドクサイし。
AI研のみんな、ちゃんとしたカスタマイズをやっているように見えてたけど、ソースコードを見せてもらうと無駄が多い。やたらステップ数が多くてゴチャゴチャしている。独学で身に付けたプログラミングの典型例だ。
イヤ、私はこの人達を指導する為に入部した訳じゃないんだけど?とりあえず何か入部しろって言われたから、名前だけ置いておく程度のつもりだったのに、何でこんなメンドクサイ事になっているのよ?
唯一まともなコーディングが出来ているのは伽羅さんだけだし、何か溜息しか出ないわ……。
「あの……、伽羅さんはどうして、他の部員にプログラミングを教えてあげないんですか?」
偶然トイレで顔を合わせた時、思い切って聞いてみたんだけど、伽羅さんは澄ました顔で答える。
「私、指導役には向いていないのよ。それに、私のパンドラはゼロスクラッチだから、基本設計からみんなとは違うし、参考にはならないでしょうね。フフフッ……」
この人が作ったパンドラのソースコードも少しだけ見せてもらったけど、ネットで配布されている雛型は使っていない、全くの別物だった。
プログラミングスキル的には、どう考えても伽羅さんが部長になるべきだと思うけど、この人はリーダー役をやりたくないらしい。私と似ているようでも何かが違う、不思議な人だ……。
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