第3話『眠い……』
余裕で終わる……、そう思っていたんだけど、考えが甘かった。改めて雛型の最新版をダウンロードして、パッケージの確認から始めたんだけど、何じゃこりゃあ!?
ソースコードにコメントが一切入っていないし、ドキュメントも断片的な情報しか書いてないしで、訳が分からない。
ネットで検索しても大して有益な情報は出て来ないし、公式サイトにも簡単な説明しか載っていなかった。つまり、自力でどうにかしろって事らしい。
参ったなぁ……、全部自力で解析する場合、1週間で時間は足りるかどうか……?ちょっと先が読めなくなっちゃったなぁ……。
でもAI研の四人は、自分達だけで解析もカスタマイズもやったって事だよねぇ……?
1週間という期限についても、何の意味も脈絡も無い数字とは思えない。入部テストなんだから、入部希望者のプログラミングスキルを推し量る基準にしているはず。
だったら私に出来ないはずはない。やってやろうじゃないの。俄然、燃えてきた。
パッケージ内のバイナリファイル以外は、ドキュメントも含めて一通り目を通す。ソースコードから逆に仕様書と設計書を作成してやって、全体的な構造を頭に叩き込む。
どんな複雑な処理をやっていても、ロジックさえ分かればこっちのもの。必ず私にも使いこなせるはず。
後は時間と根気だけ……。1週間で間に合うかなぁ……?ううん、意地でも間に合わせてやる。
あの場で「余裕です」なんて言っちゃったし、やっぱ無理でしたーなんて今更言えない。学校サボってでも、必ず間に合わせてやる……。
睡眠時間も削って自宅で集中作業。万全の体制で引きこもる為にカップヌードルをたくさん買ってきた。
最初の二日間で早々に解析は終えた。ちょっとクセはあるけど開発経験のある言語だし、今まで個人的に作ってきたライブラリを流用出来るのは助かる。
五日目には『対話コミュニケーション可能なAIを』って条件もクリアした。後は私なりのカスタマイズに時間を掛ければいい。
AI研の人達はみんなそれぞれ違うアバターにしていたけど、私はどうしようかなぁ?どこかで適当なフリー素材を拾ってきて、オリジナルっぽくアレンジしてやればいいか……。
それにしても……、ウチの父親はAI研究開発機構なんかで何をやっていたんだろう……?たぶん守秘義務の関係で、家にいる時は全然仕事の話とかしなかったし。
ただ、私にプログラミングを教えてくれた事だけは感謝している。幼稚園の頃からタブレットを使わせてくれたり、小学校入学祝いにはPCをくれたりして、他の家庭よりIT系の教育には力を入れていたと思う。
まぁ、そのお陰で私は、学校ではボッチのギーク少女になっちゃったんだけど。何をするにも、先ずロジックを考えるクセが身に付いてしまった。
今私がいじっているAIに、ウチの父親も関わっていたのかなぁ……?何しろ、個人名が一切出ていないから確認出来ないけど。
そして期限の1週間。ずっと連絡もしないで学校サボっていたから、緑川先生は心配していたみたいだけど、特に問題は無い。まぁ、ちょっと寝不足なんだけど。
眠気に耐えて授業を適当に聞き流し、放課後、満を持してAI研の部室を再訪問した。
「ダイアナ、AI研の人達にご挨拶して」
私のノートPCには煌びやかなコスチュームを着た、可愛い女の子のアバターが表示されている。AI研の四人が作ったアバターに負けないくらい可愛く出来た自信がある。
「皆さん、こんにちは。私はダイアナ。海江アイの自信作です」
言葉使いも自然になるよう、徹底的に調整してある。試しに色々と質疑応答させてみるけど、何も問題無い。
AI研のみんな、ダイアナの完成度を見てビックリしているみたいだ。まぁ当然よね。
「海江さん、凄いよ!1週間でここまで出来た人は初めてだよ!」
水辺さんが興奮気味にそう言って、私の手を握ってきた。この人は一々、人の手を握らないと感情を表現出来ないの?
「凄いねぇ〜。私達が入部テスト合格した時より、全然完成度高いよ〜」
御國さんも私のダイアナを見てビックリしたみたいで、興味津々な顔で見ている。
「部長?当然これは、文句無しで合格よね?フフフッ……」
伽羅さんはそう言って、部長の多田さんに確認した。すると多田さん、流石にビックリしたらしく、
「正直言って、驚いたよ。もちろん合格だ」
そう言って拍手してきた。
他の人達も緑川先生も、みんなおめでとうと言って拍手してくれる。
フンッ、当然の結果よね。この私が本気で作ったんだから。
まぁ、久しぶりにプログラミングで達成感を得られたのは良かったかな。ちょっと眠気が酷いんだけど……。
「スミマセン……、ちょっと寝不足なので、部室の隅でいいから寝かせて下さい……。ダイアナ、私の代わりに、みんなのお相手してあげてね……」
あぁ、ダメだ。我慢の限界。最後の三日間は結局徹夜しちゃったし……。今はとにかく眠りたい……。
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