第2話『入部希望』

 放課後、一人で部室棟へ。色んな名前の部室が並んでいるけど、AI研究部って何処なのよ?案内板とか無いから全然分からない。

 歩き回って見ていると、1階にあるのは基本的に運動部らしい。こんな汗臭い所に用は無い。サッサと2階に上がってみるけど、私には関係の無い部室ばかりが並んでいる。

 散々歩き回って全部見て回ったんだけど、AI研究部なんて何処にも無かった。

 はぁ?何の為に此処に来たと思っているのよ?此処は部室棟なんじゃなかったの?何かイライラしてきた。

 何処にも存在しないAI研究部。じゃあ私が入る部活は無いって事にしてもいいよね?部室棟に部室が無いんだから。アホクサー。

 無駄巨乳から部活に入るよう言われたんで此処に来たのだけど、お目当ての部活が見つからないんだから仕方がないよね。これ以上此処に居ても時間の無駄でしかない。サッサと家に帰ろう。



「AI研究部なら部室棟にはありませんよ。あの部は特別に、本校舎にありますから」

 翌日、緑川先生から部活動の話をされて、そう説明された。はぁ?何その特別ってーのは?

「インターネットに接続したり、学校のサーバーも利用していますから、設備が整っている本校舎に部室を用意しているんですよ。せっかく興味を持ってくれたのでしたら、今日の放課後一緒に行きましょう。AI研究部の顧問は私ですから」

 はぁ、そうですか……。そういう話は、先に言って欲しかった……。ダルい……。



 放課後、緑川先生の案内でAI研究部の部室まで来た。部室棟に無いのだから見つけられないのは当たり前だ。普通に職員室の近くにあったなんて、全然分からなかった。

 先生は意気揚々と部室のドアを開けたけど、中を見ると部員らしき人は四人しかいない。

 はぁ?AI研究部って、たったこれだけしか部員いないの?何か部活動って言うより、同好会って感じがするんだけど。

 それぞれPCで何かやっていたみたいだけど、一斉にこちらに、見慣れぬ珍入者である私に視線を向けて来た。

 男子が一人に女子三人。名札の色が私のと違うから、全員上級生なんだろう。

「ハイ、皆さん注目〜♪今日は入部希望の一年生を連れて来ましたよ〜。一年1組の海江アイさんで〜す♪」

 無駄巨乳はそう言うけど、まだ私は入部するなんて言っていない。勝手に話を進めないで欲しいんだけど?

 でも無駄巨乳はペースを乱さずに、頼んでもいないのに部員の紹介を始めた。

「彼がAI研の部長で三年生の多田ただ史郎しろうさん。同じく三年生の伽羅きやら永遠とわさん、そして二年生の水辺みなべハナさんと御國みくに詩穂しほさん。今は部員が四人しかいませんけど、海江さんが入部してくれると先生嬉しいわぁ〜♪」

 だから、勝手に話を進めないでってーの。入部するかどうかは私が決めるんだから。

 そもそも、何で部員が四人しかいないの?情報処理科がある学校なんだから、AIに興味を持つ人なんて沢山いそうなのに。

 すると、水辺さんが私に駆け寄り、急に手を握ってきた。一体何なの、この人!?

「海江アイさんっていうのね!私は二年1組の水辺ハナ!よろしくね!」

 多少興奮気味に、そう言われてビックリした。名前なら今聞いたばかりだし、もう分かっているんだけど?でも水辺さんはグイグイ来る。

「こっちは私と同じクラスで大親友の御國詩穂!女の子同士、仲良くしようね!」

 何なの?この人いわゆる『陽キャ』って人種なの?AI研に、こんな人いるんだ……。

「海江さん、よろしくね〜。入部希望者は大歓迎だよ〜♪」

 水辺さんとは対照的に、御國さんは少し落ち着いた雰囲気がある。てゆーか、気の抜けた感じと言うべきか。見た目も少しぽっちゃりしているし、ゆるキャラみたいな人だ。

 続いて伽羅さんが、

「フフフッ……、海江さんっていうのね。ようこそ、AI研へ。歓迎するわよ」

 そう言って椅子から立ち上がり、小さく手を振ってきた。この人は上級生らしく物静かで大人な感じだけど、何かちょっと普通じゃない雰囲気がある。不思議な感じの人だ……。

「ハイ……。よろしくお願いします……」

 条件反射的に返事をしたけど、今度は部長として紹介された多田さんが、椅子に座ったまま私に話しかけて来た。

「入部希望者は歓迎するよ。でも、入部出来るかどうかは別の話だけどね。君、今AI研の部員が少ない事に疑問を感じているんじゃないかな?」

 そう言って、クイッとメガネを直す多田さん。歓迎すると言う割には無愛想な顔をしている。私の言いたい事が分かっちゃったのかなぁ?真面目な優等生っぽい見た目の人だし。役所の窓口にいるような人だ。

 それより、『入部出来るかどうかは別の話』っていうのはどういう意味なのよ?普通は学校の部活動なんて、誰でも参加出来るんじゃないの?

「それ……、どういう意味ですか?」

 とりあえず、そう質問してみる。AI研の四人とも、心の中では何を考えているのやら……。

 すると水辺さんが、

「あのね、AI研の入部希望者はテストに合格しないといけないの!海江さん、プログラミングは出来る……よね?」

 そう聞いてきた。何だ、そんな事か。

「ハイ、色々出来ますけど。使う言語は何ですか?」

 プログラミングなら小学生の頃からやっているし、お小遣い稼ぎに個人で細かい仕事を何度も引き受けている。

 私なら大抵のプログラミング言語に対応出来るだけの自信はあるんだけど、AI研の入部テストって何をやるんだろう?

 すると多田さんが、

「独立行政法人AI研究開発機構が、Web上でAIの雛型を無償公開しているのは知っているかな?それをベースに、対話コミュニケーション可能なAIを作ってもらう。それが入部の条件だ。期限は1週間」

 そう、サラッと言った。

 独立行政法人AI研究開発機構かぁ……。それ、私の父親が生前勤めていた所だ……。

 すると、感傷に浸る暇も与えてもらえず、水辺さんに手を引っ張られた。

「見て海江さん!これ、私が作ったAIのフローラ!フローラ、海江さんにご挨拶して!」

 そう言って、PCの画面を見せてきた。画面には可愛い女の子のアバターが表示されている。この子がAIなの?

「こんにちは、カノエさん。ワタシはフローラです」

 えッ!?音声入力に対応して、挨拶をしてきたの?スピーカーから聞こえた声は、スムーズで自然な音声だった。

「あの……、この子、普通に会話出来るんですか……?」

 そう水辺さんに聞いてみると、彼女は自信満々の笑顔で答える。

「もちろん!会話する時、ちゃんと声も聞き分けるし、カメラを通して私達の顔も見ているんだよ!フローラ、明日の天気を教えて!」

 水辺さんの問いかけに、フローラは即座に答える。

「キショウチョウによりますとアスはハレ、ゼッコウのオデカケビヨリです。でもハナ、ガッコウをサボッテはイケませんよ」

 多分ネットから天気予報データを引っ張ってきているんだと思うけど、余計な一言が付け足されていた。

 へぇー?高校のAI研って言っても、割とレベル高いのかな?雛型を利用しているとは言っても、かなりカスタマイズしているみたいだし。

 私も以前ネットニュースで、AIの雛型が無償公開されたと知った時、興味本位でダウンロードはしてみたんだけど、それはあくまで単なる雛型でしかなかった。

 カスタマイズ前提のパッケージだと分かったらメンドクサーと思って、抱えてる仕事も複数あったし、ロクにいじらずそのまま放置してしまった。

 カスタマイズ次第ではこんな風になるんだ?これって意外と遊べるのかも……?

 御國さんと伽羅さん、多田さんのAIも見せてもらったけど、ちゃんと普通に会話出来るレベルだし見た目も可愛い。何かちょっと、興味が湧いてきた。

「どうでしょう海江さん、テスト受けてみませんか?合格出来そう?」

 無駄巨乳にそう聞かれた。誰に向かってそんな事を聞いているのよ。

「出来ますよ。1週間あれば余裕です」

 そう、キッパリと宣言してやった。

 両親が死んで以降、無駄に忙しくて趣味のプログラミングをする暇も無かったけど、久しぶりに本気出してみようかな。このぐらい、1週間あれば余裕で終わるでしょ。

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