第9話 鬼ヶ島
そして夜中。満月が真上に登った頃。海岸で監視をしている兵に見送られて、三人と三匹は船に乗り出航します。
桃太郎は船を漕ぐ隊長に強化の術をかけてあげたら、漕ぐのが軽くなり船脚が速くなったので吃驚されました。
次にみんなの武器にも強化の術をかけます。隊長も槍と小太刀を持ってきていてかけてもらいました。
船が島に到着します。見張りはいないのを確認すると一行は上陸しました。
木の影から、広場の様子を覗きます。外で角無しと一本角が寝ているのは十匹だけです。
二本角と三本角はおそらく小屋と洞窟の中で寝ているのと思われます。
「まずみんなに、体の強化の術をかけるよ。小梅はどうする?」
「相手が多いから正確さより速射性が必要だと思う。強化の術をかけて」
「解った。そうする。そして夜目の術もかけるよ。それで暗い所もよく見えるようになるから」
「満月で明るいから大丈夫だよ」
「僕はこれから竜巻の術を使って鬼どもに大きな被害を与えようと思っているんだ。それを使った後、この辺の空気が変わって暗くなり雨が降るんだよ。暗い雨の中でも戦えるようにね」
隊長と小梅は驚きます。
以前、お爺さんと二人だけで山奥の開けたところで竜巻の術を使ったことがあります。
周辺の空気が変わって竜巻が起こり、周辺の木が何本も倒れた後しばらくして雨が降ったんです。
また竜巻が起こった直後に桃太郎はしばらく倒れました。
桃太郎が目を覚ました時にお爺さんは『この術は使うな!』と怒られていたのでした。
「それで、術を使ったら反動で僕は少しの間だけ意識を失います。お爺さんの話では短い時間でご飯を食べている間ぐらいとの事。その間の戦闘は小梅と月白・潤・浅葱に任せて、隊長は私を護衛してもらえませんか?」
「大丈夫かよ……」
「大丈夫ですよ。鬼どもが竜巻に巻き込まれたら、かなり深手になるはず。そこにとどめを指すのは簡単なはずでしょうから」
「いやいや。桃太郎が大丈夫かだよ!」
「心配してくれてありがとうございます。大丈夫ですよ。少し無茶な策ですが隊長を信頼しての策です。お願いします隊長」
隊長は困りましたが、隊長も小梅もこの作戦に了承するのでした。
桃太郎はみんなに夜目の術と体の強化の術をかけました。
みんなにはもう少し後ろの下がらせて身を低くするように言って、桃太郎は一人広場まで出ます。
桃太郎は両手の掌を頭上に伸ばし、しばらくすると満月が雲に隠れ真っ暗になりました。
そして桃太郎は脚を開き腰を落すと同時に掌を下ろして正面に突き出すと周囲は突然強風が吹き出し竜巻が起こりました。
鬼どもが慌てて目を覚まし起きますが、竜巻に飲まれて空中に巻き上がります。鬼だけじゃありません。2軒の小屋も壊れて破片が空中に高く巻き上がります。
真っ暗ですが夜目の術で小梅と隊長はよく見えていて驚いています。
「すごい……これはお爺さん、怒るわけだ」
「なんて術だ……もしこれが戦で使われたら大変なことになるぞ」
「隊長、このことは他言しないようにお願いしますよ」
「小梅ちゃん、解っているよ」
竜巻は洞窟の中に入って行き、中を掻き回します。広場で舞い上がった鬼や物が落ちてきました。鬼どもは負傷し苦しんでいます。
しばらくして洞窟の中から負傷した鬼や壊れた物が出てきて竜巻は消えました。
「みんな……あとは頼んだ」
「まかせて!」
「まかせろ!」
月白、潤、浅葱たちもひと鳴きしてみんな飛び出します。
桃太郎は倒れました。隊長は桃太郎を担いで木陰に移動し、鬼どもに見つからないように身を潜めます。
苦しんでいる鬼どもに小梅は次々と矢を放しました。
月白は鬼の首に噛みつき、潤みも懐刀で首を切り裂き、浅葱は脳天を爪で切り裂いたり嘴で突いたりして、それぞれ止めを刺して行きます。
隊長はこれまで多くの兵たちが挑んで多大な犠牲を出した鬼どもに対し、次々と倒していく小梅たちの動きに驚いています。
しばらくすると、一本角の一匹が桃太郎と隊長に気付いて棍棒を振り上げて二人の元に近づいてきています。桃太郎はまだ意識を戻しません。隊長は素早く槍を構えて鬼の左胸に一撃で深く突き刺しました。
その鬼は一瞬動かなくなり槍を抜いたら血が噴き出し倒れました。
「やった……私も倒した」
隊長が呟くと、明るかった月夜も雲に隠れて真っ暗になって雨が降ってきました。雨に打たれて桃太郎は気がつきます。
「隊長、戦況はどうなっていますか?」
「気付いたか。角無しと一本角はあらかた倒したみたいだ。小梅たちが二本角と戦っている。三本角の姿はまだ見えない。洞窟の中にいるかもしれないな」
「解りました。僕も出ます」
「じゃ私も出よう!」
森川隊長の力強い言葉に嬉しくなる桃太郎でした。森川隊長は槍を桃太郎は薙刀を持って広場に出いきます。
小梅の背負っていた矢筒の矢を全部射って空になったところへ二本角が棍棒を振り上げてやってきました。
このままでは打ち付けられてしまいます。
桃太郎は籠手に仕込んでいた棒手裏剣を素早く鬼の眉間に突き刺したら蹲りました。
小梅が弓を手放して短刀を抜き出し、鬼の首筋を切りました。
「小梅、油断するな」
「ごめん。ちょっと油断した!」
周りを見回すと鬼は二本角三匹だけ。月白、潤、浅葱の三匹一対一で戦っています。
すると洞窟の方から雄叫びが聞こえました。三本角の鬼が出てきました。
「ついにお出ましか、三本角!」
「でかい!」
二本角で身長がおよそ七尺(二百十二.七センチ)と大きいのに、三本角はさらに大きく七尺五寸(二百二十七.二センチ)ほどあります。
その三本角は口を大きく開けて桃太郎に向けると炎を吹きかけます。
桃太郎は横へ飛び退き、炎を避けるました。
草や木に三本角の炎がかかりますが、燃え広がることはありません。
今、桃太郎の竜巻の術の影響で雨が降り、草木が濡れているからです。
「それが炎の妖術か結構炎が遠くまで伸びるな。およそ五間(九メートル)ってところか。だけど今雨降っているから、効果はあまりないな」
それでも炎を直接食らえば火傷するでしょうから、炎は避けて戦います。
「隊長は月白たちのところへ行って先に二本角を倒すの支援してきてください。僕と小梅でこの三本角をと戦います」
「わかった!」
「小梅、矢はもう無くなったみたいだな。棒手裏剣と短刀で頼むよ。ただし無理するなよ」
「わかってるって!」
月白たちが戦っている二本角はだいぶ負傷しています。
隊長は月白に注意が向かっている一匹の背後から槍を突き刺します。そして次々に二本角の鬼の止めを刺して行きます。
一方、桃太郎と小梅は三本角の左右から攻撃しますが、時折り炎を吹いてくるので離れて避けないといけません。
桃太郎はどうするか考えていると、小梅が近づいて話かけてきました。
「桃太郎、神術で倒すことできないの?」
「さっき大技を使ったから今は術力が無い。無理だ。こいつは手持ちの武器で戦う。棒手裏剣やるから受け取れ」
「わかった」
小梅は桃太郎が巾着から出した棒手裏剣を何本も受け取り、三本角の背後に回り込もうと移動します。
三本角は視線を小梅に移したので、桃太郎は薙刀を突き刺し突進します。
その突進に気付き三本角は炎を浴びせますが、桃太郎はすぐに回避。その回避している時に三本角の左足の太腿に棒手裏剣が一本刺さります。
『グワァーーーー!』
三本角は叫びます。
あらためて桃太郎は近づいて切り付けますが、左腕に刃先が掠っただけでした。
三本角は体を反転し棍棒を水平に桃太郎に打ち付けてきました。
薙刀の
思わず小梅は桃太郎の名前を叫びますが、無事のようです。
小梅は動き回りながら棒手裏剣を投げ、三本角の右肩に刺さります。また奇声をあげる三本角でした。
その間に桃太郎は折れた薙刀を手離し、巾着から太刀を出します。
そこへ三本角が桃太郎に向かって炎を吹きますが、しかし桃太郎は炎を躱します。
炎が桃太郎の方に吹き付けれてれいる隙に小梅は背後から身を低くし近づき右の踵を切ります。
三本角は奇声をあげながら体制が崩れて右膝を地面につけてしまいました。
そこへ桃太郎が上段から太刀を振り下ろし左肩からが食い込みました。三本角は一際大きな奇声をあげます。
更に止めとばかりに小梅が三本角の首の右側を切り裂きました。
もう三本角は声も上げることもなく倒れ込みました。
「やったな……」
「やったね……」
すると隊長と月白、潤、浅葱が桃太郎たちの所へやってきました。
「桃太郎、小梅ちゃん、みんな斃したみたいだな」
「「はい」」
みんなは
すると雨も止んできました。戦は終わったようです。
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