第8話 南御伽村

 桃太郎一行は南御伽村の中を歩き海岸目指して歩いてます。

 村の中を見ると、いろんな物が壊されて散乱しており、所々で死体が何体も見えます。

 鬼より人の死体が圧倒的に多いです。烏が死体を啄んでいるのも見えます。


「桃太郎、悲惨な光景ね……」

「そうだね……ちょっと参いるね……小梅、大丈夫かい?」

「ちょっと参いちゃうね」

「ここ通り抜けて監視部隊の人と会う前に、気を落ち着かせる術をかけようか?」

「そうね……お願い」

 

 しばらく歩いていると兵たちの姿が見えました。監視部隊の兵のようです。

 桃太郎は自分と小梅に気を落ち着かせる術をかけました。

 そして一息ついて兵たちの所に向かいます。

 兵たちも桃太郎たちに気付きました。


「すみません。隊長にお会いしたいのですが」

「俺だ。何のようだ?」

「僕は桃太郎と言います。この娘は小梅で、あとこの三匹は僕の仲間です。御屋形様から書状を預かって来ました」


 隊長は差し出された手紙を受け取り、その場で読みます。

 内容に驚き、桃太郎たちを見回すのでした。


「わかった。此処を自由に通っていいぞ。何かあれば出来る限り助けるように書いてあるから、遠慮なく言うといい」

「はい。ありがとうございます。御屋形様から鬼は十六匹いると聞きました。他に鬼どもや島について解ることがあれば説明してくれますか?」

「よかろう。まずは付いて来なさい。島が見える海岸まで案内する」


 隊長に連れられ海岸に出ました。

 桃太郎と小梅は驚きます。実は二人とも初めて海を見ます。

 その様子を見て隊長は声をかけます。


「もしかしてお前たち、海を見るの初めてか?」

「はい。僕たちは山奥の相里村から来ました。川や池は村にあるんですが、海を見るのは初めてです」

「じゃ鬼ヶ島で行くには俺が船で乗せて行ってやろう。そして俺も戦う」

「え?船を貸してくれたら僕たちだけで行きますよ。池で釣りした時に船漕いだことありますから」

「馬鹿やろう。池と海とでは波の高さや潮の流れが全然違う。船を漕ぐのにお前たちが体力を使う必要なない。いいから船はまかせろ」

「……はい。ではお願いします」


 船を出してもらう約束をしましたので、改めて島の現状を説明してもらいました。


 正式名称は登美ヶ島。

 南御伽村の海岸から十町(千九十メートル)先にあり、南北に一町(百九メートル)東西に一町半(百六十三.五メートル)の無人島。

 島の周囲は木に囲まれていますが、中央の広場があり斜面にも洞窟がある。

 その洞窟そばに物置小屋が2軒あり、鬼どもは洞窟と2軒の物置小屋に分かれているんじゃないかとみている。


「浅葱、ちょっと島で飛んできて、鬼達の様子を見て来てくれないか?」

『私は多少は飛べるけど、そんなに長距離は飛べないですよ』

「大丈夫。強化の術をいつもより強めにかけてあげるから、それだと長距離飛ぶのも可能だろ?」

『わかりました。お願いします』


 そして浅葱は強化の術をかけてもらい、空に舞い上がりました。


「浅葱、どうだい?島までの偵察は出来そうかい?」

『はい。大丈夫そうです。では行ってきます』

「じゃ偵察を頼むよ」


 そう言って、浅葱は島まで飛んで行きました。

 桃太郎と小梅は平然と浅葱が飛んでいくのを見ていますが、隊長や他の兵たちは驚いています。


「桃太郎よ、お前の仲間の雉って空高く飛べるのか!それに偵察に出るよう命令していたが、雉が見聞きした情報をどうやって知るんだ?」

「僕は動物の言葉が解るんです。あと僕の仲間達の力については内緒でお願いします(笑)」

「そうか、すごいなぁ……桃太郎たちの能力については御屋形様が他言しないようにと書状に記していたから追求しないようにするよ」

 

 隊長は他の兵たちに桃太郎のことを他人に言わないよう言い聞かせました。



 しばらくして、浅葱が偵察から帰ってきました。

 鬼どもは見張りを立てていなかったとで島に降りて、近くから島の現状を見ました。

 鬼どもは広場の小屋と洞窟の周辺にいました。数は全部で十六匹。

 角無しが二匹、一本角が八匹、二本角が五匹、三本角が一匹。 

 昼寝している奴、奪った野菜を食っている奴、喧嘩している奴など鬼どもの動きバラバラだけど、一番大きな三本角が声を上げたらみんな動きを止めて三本角に注目していると報告しました。

 やはり三本角がここの鬼どもの頭です。


「隊長、鬼どもは夜寝るんですか?」

「これまでの鬼どもの動きの話を聞くと、夜は寝ているようだ。だから鬼ヶ島に行くなら夜中に行くべきだろうね」

「でしょうね。じゃ今日は早く寝て、夜中に船で行きましょう。幸い今夜は満月ですから真夜中の出港でも大丈夫でしょ?」

「あぁ。大丈夫だ。じゃこれから飯を食って早めに寝よう。近くに私たちが寝泊まりしている家があるからそこで寝るといい」

 

 隊長は監視の任務を他の者に任せて、隊長と桃太郎一行は民家に行き早めの食事にします。

 そして隊長自らが食事を用意してくれました。一緒に食事を摂っていると隊長が話し始めました。


「私は武士だけど実はあまり武芸得意じゃないんだ。ここでは最後方で兵糧の管理と守備を任されていたんだよ。しかし今朝戦になりほとんどの兵が死んだ。よいよ私も戦わねばならぬかと思ったら鬼どもは退却していった。私はよかったと思いながらも悔しかったよ……なんで私は生きているんだろって……今ここは兵がいないから私は監視部隊に回されのさ」

「そうだったんですか」

「だから私はお前たちが討伐に打って出るというから可能な限り助けたい。だから船は私が漕いで連れて行ってやりたいんだ」

「はい。お願いします」

「他にも何か手伝って欲しいことがあれば遠慮なく言ってくれ。小梅もだよ」

「「はい」」

「この食事は亡くなった兵たちの分の一部だ。しっかり食べて、討伐に備えよう。三匹のみんなも頼むよ」


 桃太郎たちのそばで一緒に食事を摂っていた三匹が声を上げたので、隊長と小梅は『まかせとけ』と言っているように聞こえたのでした。

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