第7話 北御伽村
桃太郎一行は南御伽村に向かう途中、何度か鬼どもを見つけました。
その度に、鬼の集団と戦って
小梅が離れたところから弓で矢を放ちます。
月白は棍棒を持つ腕や首に噛み付き、潤は懐刀で脛や踵を切り裂きます。
浅葱は嘴や爪で頭を狙い打ちます。
桃太郎は薙刀で切り斃すのでした。
月白、潤、浅葱の三匹は強化の術を受けた戦い方のコツを掴み、みんな強くなってきました。
桃太郎一行は南御伽村の北にある北御伽村に着いたら、民家の軒下に怪我をした兵が疲れたように
もしかして此処に御屋形様がいるのではと思い、桃太郎は兵に声をかけました。
「大丈夫ですか?」
「なんとかな……見ての通りさ。ところで君たちは?」
桃太郎と小梅は懐から討鬼士証の木札を見せ名前を言いました。兵は驚きます。
此処へ来た理由を説明して御屋形様に書状を渡したいと言うと、怪我をした兵は御屋形様の所まで案内を買って出ました。
彼が足を少し引き摺りながら歩く姿は痛々しいです。
別の民家の前に案内されると門番が二人いて、怪我をした兵から事情を説明されました。
門番にその場で待つよう指示され一人が家の中に行きました。
そして怪我をした兵はさっきの所まで帰っていきます。
その後ろ姿に感謝の言葉を言い、門番に気付かれないようにこっそり回復の術をかけました。
しかし、小梅は気付きました。小声で桃太郎に言います。
(桃太郎。あの人に回復の術をかけたでしょ?駄目よ、大騒ぎになるからね)
(解ってるよ。怪我しているのに案内してくれたお礼だよ)
しばらくすると家臣が現れ、御屋形様のところまで桃太郎と小梅の二人を案内してくれることになりました。
月白、潤、浅葱の三匹はここで待機でます。
家に上がり、御屋形様がいる部屋の前に案内されました。
家臣が「御屋形様、連れてきました」と声を掛けると中から「入れ」との声。
襖を開けたら、男が三人いました。真ん中に右腕が添え木で固定された人が座っていました。横には頭に包帯を巻いた者。そして怪我した足を放り出した座っている者がいます。
真ん中の右腕を怪我されている人が御屋形様です。
骨折をしているようで少し辛そうな表情が見えます。
その御屋形様の前に桃太郎と小梅は正座をし挨拶をします。
「よく来てくれたな。信広から手紙を預かったと聞いた。まずは見せてくれ」
「はい。それから僕の育ての親である宗十郎からの手紙も御屋形様に直接渡すように預かっています」
「そうか……ではそれも合わせて見せてくれ」
桃太郎は二通の手紙を渡します。
----------------
信広の手紙。
御屋形様、帰還できず手紙での報告申し訳ありません。
私は宗十郎師匠がいる相里村に着いた時、怪我がひどくなり歩くのが困難になってしまいました。
宗十郎師匠と会えたのですが、やっぱり高齢ということもあり鬼討伐への参加は断られました。
しかし弟子の桃太郎と小梅の二人を紹介されました。二人が模擬戦をするのを見たんですが二人とも強いです。
特に桃太郎は大きな戦力になるでしょう。二人にはすでに討鬼士証を与えております。
なにとぞ、私と宗十郎師匠の代わりに二人を鬼退治の兵に加えてください。
----------------
宗十郎師匠の手紙。
御屋形様、ご無沙汰しております。
信広から鬼どもが国を荒らしているとの知らせを受け驚きました。
御屋形様が私にも鬼討伐のするようにとのことでしたが、私も高齢で昔のように体が動かなくなりました。
申し訳ありませんがお断りさせてください。私も悔しく思っております。
代わりに私の弟子の桃太郎と小梅を遣わせました。二人ともかなり強いです。
小梅は女ですが剣も弓も使います。弓の命中率が高いです。
桃太郎はあらゆる武器を使い、格闘もこなします。
そしてこれは他言無用でお願いしたく御屋形様にお伝えしますが、桃太郎は不思議な術を使えます。
私の村の者だけの秘密で信広にも教えてはおりません。その術のことを私どもは神術と呼んでいます。
神術の力も活かせば鬼どもを退治できるでしょう。
この桃太郎の力はなるべく他人に知られてはいけません。
御屋形様は信用しますが他の権力者などに知られてたら余計な騒動になる恐れがあります。
なのでなるべく二人は別命を与え、二人だけで行動出来るようにお願いいたします。
----------------
御屋形様は少し考えました。
しばらく桃太郎と小梅の三人だけで話ができるように、御屋形様は周りいる家臣たちに部屋を出るよう命じます。
家臣たちは驚きますが、命じられた通りに出ていきました。
「桃太郎よ、宗十郎の手紙によるとお主は神術が使えるそうだな。どのようなことが出来るのだ?そのことは誰にも話さないから話してみよ」
「ーーはい。体や武器を強化したり、怪我の回復などの術が使えます。他にも攻撃に使えるものなどいろいろあります」
「そうか。それは頼もしいな」
「もしよろしければ、腕の怪我少しだけ回復させましょうか?完治させたら周りの人に怪しく思われますので、痛みがない程度に」
「おぉ、そうか。それはありがたい。では頼む」
「はい」
桃太郎は御屋形様の近くまで来て、怪我をしている右腕に手を向けるのでした。
御屋形様の右腕は仄(ほの)かに温かくなりました。
「御屋形様、終わりました。右腕はいがかでしょうか?」
「おぉ、痛みがなくなった。すごい……感謝するぞ」
「少しではありますが、回復されてなによりです」
御屋形様は右腕を動かし笑顔になりました。
しかし、すぐに真剣な顔になります。
「では、二人に鬼どもの現状を教えよう」
「「はい」」
今朝、御屋形様たちは南御伽村に陣営形成している時に鬼どもと戦闘になりました。
鬼どもを何匹かは斃(たお)しましたが、それ以上に兵たちの被害は大きくなりましたので、この北御伽村まで後退したのでした。
すると鬼どもがも鬼ヶ島に戻りました。鬼どもは基本的に食糧略奪をしたらその場で食べることはせず、根城などに持っていって食べるからです。
現在動ける兵は此処にいる者と島の動きを監視のために海岸にいる者たちぐらいでした。
「そうだったんですね」
「宗十郎の手紙によるとお前達は儂の兵とは別に動いて欲しいとあったが、もう戦に出せる兵がいない。それでだ……お前達の実力はお墨付きのようだし、二人で鬼ヶ島にいる鬼どもを斃すことは出来るか?」
「島に鬼は何匹いるのでしょうか?」
「最初は五十匹いたが、今は十六匹ほどだと思う。角ありがほとんどで、一本角や二本角の他に、中に一匹だけ三本角がいる。こいつは炎を吹く妖術を持っていてかなり厄介だ」
十六匹のうち一匹が三本角で炎を吹く妖術使い。かなり厳しそうに思い悩む桃太郎でしたが、当然倒しに行きます。その為にここまで来たのですから。
「分かりました。僕と小梅と仲間で鬼ヶ島に乗り込んで斃してきます」
「手紙には二人としか書いてなかったが、仲間がいるのか?」
「はい。相里村を出てから犬、猿、雉の三匹と仲間になりました。今この家の門番のところで待機しております」
「畜生が仲間だと?……もしやお前の神術の効果もあってか?」
「はい」
御屋形様は感心し、桃太郎と小梅とその仲間達に鬼ヶ島へ鬼の討伐をするように命じるのでした。
それから御屋形様は筆と紙と取り出し書状を書きました。
「海岸に鬼ヶ島の動きを監視部隊がいる。そこにいる隊長にこの書状を見せなさい。お前達に可能な限り協力をし、戦いの様子など見ても他言してならないと書いておいたから。それでお前達は思いっきり暴れて鬼どもを斃してきなさい」
桃太郎と小梅は元気よく「「はい」」と返事をしたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます