第10話 戦の後
『桃太郎さん、洞窟の方から変な気配を感じます』
月白が桃太郎に言います。桃太郎は隊長と月白と一緒に洞窟の中に入りました。
小梅と潤、浅葱は万が一のために外で待機します。
竜巻の術の所為で中には物が壊れて散乱していました。
洞窟の一番奥の窪みのところの真下に仄かに赤く光る石がありました。直径は約一尺(三十.三センチ)。
「隊長……この石、なんだか妖しいですね。この島に何か特別な
「いや、ないよ。鬼どもがこの島を寝ぐらにしていると聞いて、南御伽村の人たちから話を聞いたり文献など調べたりしたけど、特に何も謂れはなかったよ……確かにこの石は妖しいね」
「じゃこの石を浄化してみましょうか?」
「そんなことも出来るのかい?できれば御屋形様の判断を仰いでみたいけど、もしその間にまた鬼どもが湧いてきてら大変だし……じゃ、やってくれるかい?」
「はい。さっき少し休憩したので神術は回復しました。やってみますね」
桃太郎は両方の掌を石の方に
仄かに赤く光っていた妖しい石が徐々に白く変わっていきます。
やがて妖しい石は真っ白になりました。
桃太郎が手を翳すのをやめると、石がすーっと崩れ落ちて細かな灰なったのでした。
『妖しい気配なくなりましたね』
「そうだね。月白が妖しい気配がなくなったと言っています。隊長どうですか?」
「あぁ……多分これでよさそうな気がするよ。桃太郎、ありがとう。ほんと君は凄いねぇ」
「ありがとうございます。じゃ小梅たちが心配するといけないから出ましょうか」
桃太郎たちは洞窟から出て空が明るくなっていました。まもなく夜明けです。
小梅に中での事を話し驚きます。念のため島の周辺に異常がないか皆んなで確信しましたが、他に異変は見たりませんでした。
桃太郎たちは船に乗り南御伽村に帰ります。
海を渡っていると、東の方にお日様は完全に出ていました。そして西の方には虹が出ていました。
「虹が出ている。虹の袂が南御伽村だよね。鬼にやられた村・元通りになるといいね」
「そうだね」
「あぁ、復興させて見せるよ」
南御伽村に着くと、海岸の監視部隊の兵たちに鬼どもを倒したと言うと歓喜に沸きました。
そしてしばらくすると、御屋形様たちが駆けつけてきました。
海岸の監視部隊が鬼ヶ島から桃太郎たちの船が来てるのを見つけ、すぐに御屋形様に報告に行っていたのです。
隊長は御屋形様の御前に行き、膝を付けて頭を下げました。
桃太郎と小梅も隊長に倣って頭を下げました。
「御屋形様に申し上げます。鬼ヶ島の鬼どもを全て倒しました。桃太郎と小梅と仲間達の活躍により成し遂げられました」
「そうかそうか。よくやった。天晴れだ」
御屋形様は大変喜ばれました。満足されています。
隊長は内密な話がしたいと述べます。許しをもらい御屋形様にそっと耳打ちで島の祠で見かけた妖しい石について話しました。
仄かに赤く光る妖しい石を見つけ、それを桃太郎が浄化したら白い灰になり、妖しい気配がなくなったことを。
すると、御屋形様は驚くのでした。
「あの島に祠があるのは聞いていたが、そんな石があったとは聞いていないぞ。お前たちが言うように、その石が鬼どもを発生させたか呼び寄せたのかもしれないな。早急に対処してくれてたのは正しい判断だ。礼を言うぞ」
桃太郎たちは御屋形様に頭を下げられ、とても驚くのでした。
「しかし、お前たちは泥だらけだな。家臣に風呂を用意させよう。まず風呂に入ってからゆっくり休みなさい。そして今夜は宴じゃ、勿論、桃太郎に小梅だけじゃないぞ。犬、猿、雉のお前たちも参加するんだぞ」
『『『はい!』』』
桃太郎たちは風呂に入り、ゆっくり休みました。
そして夜になり宴が開かれました。みんなで楽しく飲み食いしています。
すると月白が、桃太郎に聞いてきます。
『ねぇ桃太郎さん、以前くれた吉備団子はもうない?ここの料理もいいけど、吉備団子が欲しいです』
「月白、もう吉備団子は無いんだよ」
『『『えーー』』』
すると、月白だけじゃなく、潤も浅葱も驚き、がっかりしていました。
みんな吉備団子が好きだったんです。
「皆んなそんなに好きだったのか……俺と小梅は明日、相里村に向けて出立しようと思っているけど、なんだったら一緒に行くかい?相里村には吉備団子を作ってくれたお婆さんがいるよ」
『『『はい!行きます!』』』
「よし!じゃ一緒に相里村に行こう」
明日には相里村に帰るつもりでいたら、御屋形様が近くに来て話しかけてきました。
「いっぱい食べてくれているようだな。いいぞ」
「はい。ありがたくいただいております」
「ところでお前たち、儂の家来にならぬか?俸給は弾むぞ」
そう言って御屋形様は桃太郎の肩をぽんぽんと叩くのでした。
桃太郎と小梅は吃驚し、お互いの顔を見ます。
すると桃太郎が答えます。
「すみませんが、お断りいたします」
「何故じゃ?俸給も弾むと言っておるのに」
桃太郎はゆっくり答えます。
「私は孤児でした。赤子の時に相里村の川で籠に入って流れていたのをお婆さんが拾ってくれたんです。親は村の外の人みたいで誰かは分かりません。そんな僕を村のお爺さんお婆さんや他多くの村の人達に育ててくれました。だから僕は村に住んで、村のみんなに恩返しがしたいのです」
桃太郎の返答に驚きましたが、御屋形様は無理を言って家来にするのは悪いと思い諦めるのでした。
小梅はどうかと聞くと、小梅も断りました。
「私は桃太郎の乳母の娘です。桃太郎の姉です」
「勝手に僕の姉を名乗るなよ。姉と認めた覚えないぞ」
「だってそうじゃない。実際に私が生まれて私の母がまだお乳が出たから桃太郎もお乳が飲めたんだから」
「まぁ、そうだけどー」
桃太郎と小梅の会話に呆れた顔で御屋形様が見ています。
それに桃太郎と小梅は恥ずかしくなるのでした。
「「失礼しました」」
「あぁ……よいよい。それで小梅は儂の家来にどうじゃ?」
「はい。こんな人並外れた弟は誰かが付いていないと何を仕出かすか分りません。なので私がしっかり監視をし問題を起こさないようにしますので、家来のお話は私もお断りいたします」
それを聞いて御屋形様は大層お笑いになり、御屋形様は二人のことは諦めました。
桃太郎と小梅は御屋形様に頭を下げるのでした。
そして桃太郎は明朝にはこの村を出て相里村に帰りたいと御屋形様に申します。
「そうか。相里村に帰るのは良いが、すまぬがしばらく国内を巡回して他にも鬼がいないか確認し退治してもらえぬか?他の村などにまだ鬼が残っていたら危険だからな。勿論その分の報酬を出すぞ」
「そうですね。鬼どもが他の村などにもいないとはかぎらないですよね。分かりました。国内を巡回して帰るとします。小梅もいいだろ?」
「そうね。他の村でも鬼に襲われていると聞いたら嫌だもんね。いいよ」
「うむ。よろしく頼むぞ、桃太郎、小梅、そして仲間たちもな」
「「はい」」
『『『はい』』』
その夜の宴は楽しく過ぎるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます