第3話 出立
翌日、小梅が両親の許可をもらったと言って桃太郎の家にきました。
最初はかなり反対されたけど、国の為この村の為ということで渋々認めてくれたとのことです。
今、信広さんは奥の部屋で休んでいます。お爺さんお婆さん桃太郎と小梅と四人で話を続けていると、お爺さんが巾着を出してきました。
「この巾着はなぁ、桃太郎が赤ん坊の時に桃太郎が入っていた籠の中に一緒にあったものだ」
桃太郎と小梅はまじまじと巾着を見ます。
「一見、握り拳ぐらいの小物しか入らなそうな小さな巾着だけど、実際は荷車数台分の荷物は入る代物なんだよ」
「え、そうなの?」
「すごい…」
「あぁ、そうだよ。この巾着の中に桃太郎の出自が解るようなものは入ってなかったが、刀や防具などいろんな物が入ってた。特にこの太刀は中々の名刀だ。何度か使ってみたが物凄い切れ味だった」
「へぇ。そうなんだ」
「もしかしたら、巾着と刀などの持ち主が解れば、桃太郎の出自が解るかもしれないが……」
お爺さんお婆さんは少し心配な顔をするのでした。
旅に出て桃太郎の出自が解ったらどうなってしまうのか。
「僕の出自のことはいいです。俺はこの相里村で育ちました。それだけで充分です」
「そうか。ありがとう」
「ありがとうよ、桃太郎」
「桃太郎はこの村の生まれで私のお母さんのおっぱいで育った私の弟だよ」
小梅がそう言うと、みんな笑顔になるのでした。
そしてお爺さんが話を続けます。
「それでな、桃太郎、小梅。この巾着をとても便利なものだ。巾着のことは誰も言うんじゃないよ」
「「はい」」
「それで桃太郎は巾着を腰に下げて普段は薙刀を使うといい。鬼はうちらより大きいから刀より薙刀がいいだろう」
「はい」
「小梅は弓の腕がいいから、短弓を使うといい。なるべく離れた所から弓で射って、乱戦になったら打刀を使うといい」
「はい」
それからいろいろ説明してくれた。
「桃太郎は誰よりも身体能力が高い。いや高過ぎる。それに神術も使える。能力に自惚れるなよ。毎日必ず鍛錬し精進するんだ。そして神術のことを周りの人には知られないように」
「鬼は刀や弓が通りにくくて強いんでしょ?神術を使わないと無理なんじゃない?」
神術とは人には不可能な不思議な術。身体や武具の強化、怪我や病気の回復、風や炎を出現させたりするものです。お爺さん達は神術と呼んでいます。
神術のことが知られたら、周囲の人から色々頼まれたり、権力者からは命令されたり、場合によっては能力を脅威と感じて桃太郎を亡き者にしようとするかもしれません。
昔、赤ん坊だった桃太郎がこの村に来て、あの女性が亡くなったのはその所為じゃないかとお爺さん達は思っています。
なので、お爺さんは極力神術を他の人に知られないようにいい、桃太郎は納得します。
ちなみに、桃太郎が神術を使うことを相里村の人たちは知っていますが、村の外の人たちには絶対に話さないようにしています。
「小梅は桃太郎ほどではないがお前もかなり強いからな。だけど毎日の鍛錬を忘れないように。そして二人でいろいろ経験積んでいきなさい」
「はい。お爺さん」
「明朝に出立じゃ、今夜はゆっくり寝て明日に備えなさい」
「「はい」」
朝、出立の時間になりました。
桃太郎の家に出立の話を聞いた村の人たちが見送りに来ています。
小梅たち家族が家にやってきました。
小梅の両親、それに三つ下の弟の
実は、一平は姉の小梅と桃太郎と一緒にお爺さんから武芸を学んでいましたが、ついていけず辞めました。
今は両親の畑仕事を手伝っています。
みんなが集まったところでお爺さんが声をかけます。
「桃太郎、小梅、鬼どもは強い。しかしお前たちの実力なら油断しなければ倒せる。しっかり頼むぞ」
「「はい」」
信広さんが声をかけましたた。
本来なら信広さんが桃太郎と小梅を連れて行かないといけないのですが、怪我がひどいのでこの家で療養します。
「お前達を【
「「はい」」
桃太郎と小梅は討鬼士証を受け取った。
そしてお婆さんが風呂敷を差し出しました。
「これは早起きして作った弁当に
「お婆さん、ありがとう。これ食ったら百人力だよ」
周りから笑いがおきます。
弁当と吉備団子を受け取りますが、実は食べ物はすでに巾着の中にいっぱい入っています。
巾着の中では腐ることなくいつでも食べられるから安心です。
わざわざお婆さんが渡して見せたのは、出立の時に食べ物を持って行かないと変に思われるからです。
巾着とは別に旅用の竹籠も持って少し荷物を入れて行きます。
「じゃもう出立します。みなさん。ありがとうございます。お達者で」
「みなさん、行ってまいります。一平、お父さんお母さんを頼んだよ」
「うん。姉ちゃんまかせて!いってらっしゃい」
「「「「いってらっしゃい」」」」
「気をつけてね」
「元気でなー」
「無事帰ってこいよ!」
桃太郎と小梅は鬼退治の旅に出たのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます