第9話 姉妹の違い【ビオレッタ視点2】
「あなただって、資格はない。知ってるのよ。貴女もわたくしと同じ。愚かな女と、誰か分からない男の血を引いた平民よ! 尊い血なんて一滴も流れていない!」
「そう、貴女は先王の子ではないと認めるのね」
「……え」
「王族ではないと、自分で言ったわよね。なら、貴女がそこに座っているのはどうして?」
「あ……あ……」
ようやく、自分のミスに気が付いたみたいね。
「ミリア、貴女は王になれない。だって、先王の血を引いていないんだもの。けどね、わたくしは資格があるの」
「……なんで……」
「わたくしは、お母様と先王の子よ。神殿が正式に認定してる。先王も、わたくしを自分の子だと認めているわ。お母様は不貞なんてなさらない。それだけお母様には信用があるの。今更貴女達がわたくしの生まれを訴えても、帝国に嫁いだわたくしを陥れたい戯言だと思われるわ。わたくしと貴女の立場は違う」
ミリアは意味が分からないようだけど、他の方は理解したみたいね。ミリアの夫が、彼女を庇うように前に出た。
良かった。ミリアの味方も、ちゃんといる。
目に光がなかったミリアの表情が、悔しそうに歪んだ。
これなら大丈夫ね。わたくしを恨んで、悔しがって、立ち上がって。たとえわたくし達に王族の血が流れていなくても、我々は民を守る義務と責任がある。
「真実なんて、関係ないの。わたくしはこの国の正当な王位継承者よ。ミリア、貴女は偽物。ここに証拠もある。貴女のお母様が書いた手紙よ」
手渡した手紙を読んだミリアは、手紙をぐちゃぐちゃに握りつぶした。
「それ、偽物よ。同じ文をわたくしが書き写したの。こうなると思ってね。本物はこっち。母親の字すら忘れてしまったの?」
「ふざけ……」
「やめろ!」
ミリアの夫が、ミリアを止める。彼はわたくしを睨みながら、問いかけた。
「ビオレッタ様、貴女は何をお望みなんですか?」
「話の分かる旦那様ね。偽物に国を任せられないわ。本物のわたくしが、この国を率いる。だけど、わたくしはもう帝国に嫁いだ身。だから……帝国の属国になりなさい」
「属国……?!」
「ええ、そうすれば半分血の繋がったミリアに代理として国を任せても良いわ。払うものは払ってもらうけど、逃した者達も呼び戻せる。帝国の庇護があれば、攻められる心配はないわ。民は変わらず暮らせる。けど、あくまでもミリアはわたくしの部下よ。王はわたくし。ちゃんと、弁えてね」
「……どう、いうこと?」
「あ……ありがとうございます……! ありがとうございますビオレッタ様!」
理解していないミリアと、理解した者達の差は大きい。属国と言いながら、ある程度の金銭を収めれば自由にして良いと理解したみたいね。国としての体裁が残り、民の暮らしや文化は守れる。他国の侵略に怯えなくて済む。取引を切られた国との関係も修復する。属国になっても、メリットの方が大きいわ。
国は立ち直る。
ミリアの夫は彼女を守る気があるし、これからわたくしが姉として教育すれば良い。
わたくしを嫌ってくれて構わない。嫌いな人に馬鹿にされれば、奮起するだろうから。
トーマスよりも考え方が幼いから大変だと思うけど、周りには恵まれてるみたいだからなんとかなるわ。
「……なんで……お礼を言うのよ……わたくしと貴女……何が違うの?!」
「全て違う。貴女はビオレッタのように民を思いやる気持ちがない。王族として国同士の力関係を学ぶ姿勢もないし、所作も乱れていて見てられない。言葉遣いも最悪だ。王族として育てられていたなんて信じられん。ビオレッタは十歳の時には三ヶ国語を話せたし、外交もしていた。マナーもダンスも完璧だ。なぁ、教えてくれ。お前がビオレッタより優れている部分はどこだ?」
モーリス様の目がいつもより細くなる。ちゃんと取り繕ってたのに、ミリアをお前なんて呼んでるし。
明らかに怒っておられるわ。ミリアの態度をお許しになったわけではないのね。うう……恥ずかしいけどこうなったらこうするしか……。
「あら、どんなわたくしでも好きだと言ってくれたじゃないの。ミリアより優れていないと、好きになってもらえないの?」
腕を取り、上目遣いでモーリス様を見る。モーリス様の顔は真っ赤だ。よし、成功!
「そんな事ない! どんなビオレッタでも大好きだ」
チラリとお母様を見ると、小さくウインクして下さった。お父様は、笑いを堪えている。冷たい空気がほんのりと暖かなものに変わる。
「わたくしが王になるわ。すぐに即位の準備をしてちょうだい」
わたくしは、生まれ故郷の王になった。
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