第8話 ビオレッタの覚悟【ビオレッタ視点1】※重いシーンがあります
王座に座るのは、虚な目をした幼い少女。わたくしと血の繋がった妹。母は父に殺され、父はつい先日処刑されたそうだ。
裁判はあっという間に終わり、罪が確定してすぐ処刑されたらしい。王妃の不貞は表沙汰にできない。亡くなっているのだから尚更だ。この国の王位を継げるのはミリアか、わたくしだけ。
わたくしは一歳ごろに国を出ている。だから、ミリアが王位を継ぐしかない。
ミリアの隣に座るのは、まだ年若い少年。国王が処刑されてすぐミリアと結婚し、王配として働いている。彼の目の下には大きな隈がある。
きっと相当無理をしているのだろう。そうまでして、国を守りたいのだ。立派だと思う。彼は宰相様のご子息だと聞いた。父親に似た、立派な方のようね。
ニコニコと微笑むモーリス様が、優雅に挨拶をした。
「結婚したのでご挨拶に伺おうと思いまして。義理の父と母はビオレッタが可愛いらしくて、ついてきてしまったのですよ」
モーリス様が話すと、空気がピリッと引き締まる。こんなに凄い人なのに、彼はわたくしが良いと言ってくれる。わたくしは、とても運が良いわ。王族なら政略結婚が当たり前。お母様みたいに愛されない事だってよくある。それなのに、モーリス様はわたくしだけが良いと言ってくれる。
先週結婚式をして、わたくしはモーリス様の妻になった。手柄を立てれば側妃を拒否できるとモーリス様は言った。わたくしを利用してごめんと謝られた。
でも、今回の事を提案したのはわたくし。モーリス様の役に立ちたかった。まさか、彼が手柄を求める理由が側妃を拒否する為だとは思わなかったけど。
わたくしがモーリス様の役に立てば、彼がわたくしと結婚した意味がある。わたくしの生まれは、色々と危うい。本来のわたくしは、モーリス様と結婚できる身分ではない。お母様がわたくしを養女にしてくれて、お父様が婚約をまとめてくれて、モーリス様がわたくしを愛してくれたから、今がある。
「子離れできておらず申し訳ありません。ご即位、おめでとうございます」
お父様が笑顔で挨拶をする。殺された王妃と国王の事には触れず即位を祝う事で、今の彼等を認めたと示す。
ホッとした様子の宰相様達。なんとか穏便に済ませようとする彼等の思惑は、即位したばかりの女王によって破壊された。
「……わたくしは殺されるの?」
会ってすぐそんな事を言い出すミリアの目には生気がない。
「殺されるような事をしたの?」
「だって……わたくしは……」
「申し訳ありません。ミリア女王はまだ即位したばかりで、両親が他界したショックから立ち直っておりません。あとは私が引き継ぎますので、退室をお許しください」
宰相様達が、どうにかミリアを退室させようとしている。逃さないわ。今回の謁見も、ミリアが同席する事を条件にした。
この国に、帝国の提案を拒否する力はない。
「帝国の遣いである我らを蔑ろにするということだな」
モーリス様のお言葉に、宰相様達の顔色が真っ青になった。
「……そんなつもりでは……! 妻はまだ幼いのです! どうか、どうかご容赦ください」
「ふん、この程度で折れるなら帝国に嫁ぐなんて無理だ。ビオレッタより自分が優秀だと散々言ったではないか」
「あははっ……やっぱりわたくしは殺されるんだわ……お母様と一緒ね」
ミリアが笑う。以前見た時と違い、乾いた声と焦点の合わない目をした十歳の少女。あの時の傲慢さはなく、ただ笑うだけ。まるで、人形のようだ。
思わずお母様の顔を見ると、お母様は黙って首を振った。そうだ、ミリアに同情しては駄目。我々は自分の意思だけで行動してはいけない。わたくしの言葉や行動には、多くの人々の暮らしや生命がかかっている。
そんなの、ソフィアや幼いトーマスも理解している王族の基本だ。格上の帝国の関係者にこの態度はない。ソフィアだって、散々モーリス様の文句を言うけどお話する時は丁寧に接している。
ソフィア達が知っている事を、ミリアは親からも教師からも教わらなかったんだわ。
胸が痛むけれど、この国はわたくしが貰う。血を流さず国を取れるのは、わたくしだけだから。
このままでは、この国はどこかに攻められる。戦争になれば民に多くの血が流れる。それだけは防がないと。
帝国に嫁入りしたわたくしが王になれば、誰も攻めてこない。わたくしは表向きはこの国の先王の娘だもの。問題なく王位を継げる。
きっと多くの批判を浴びるだろう。わたくしの生まれが明らかになれば、簒奪者と罵られるかもしれない。けど、大丈夫。
わたくしを信じてくれる多くの味方がいる。わたくしの事を知らない人々から嫌われても気にしないわ。
わたくしは、帝国のモーリス・ウォルトンの妻。自分の価値を示さなければ、彼の隣に立つ資格はない。その為なら、生みの親でも実の妹でも利用する。
「ミリア女王、あなたは王の資格がないわ」
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