第6話 王族として

「キャシィ、話がある」


クリスが、怖い顔で部屋に入ってきた。子ども達を任せて、二人きりで話をする。


「どうしたの? そんなに怖い顔をして」


「さっき、モーリス様と話をしたんだ。あの国の王妃が、死んだ」


「……死んだ? どうして?」


「殺されたよ。あの男に」


「あの人は、王妃を大事にしてたわよね?」


「子ども達の出生を知った国王が王妃を問い詰め、殺したそうだ。王は裁判にかけられるが、おそらく死刑だろう」


「……え、国王が死刑? あの国、王族が罪を犯しても裁けなかったわよね?」


「宰相達が法律を変えたらしい。正式に裁判をすれば王妃を排除するだけで済んだのに、王妃を殺したせいで王も犯罪者だ」


「……じゃあ、もう……」


「あの国は終わる。モーリス様から、手出し無用だと釘を刺されたよ。ミリアに王位を継がせるだろうが、あの子も王の子ではないからな。そこを突かれたら終わりだ。どうやら、亡くなった王妃がモーリス様に手紙を送っていたらしい。そこに、ビオレッタとミリアの父親についても書かれていた」


「そんな手紙、送ってたの? いくらなんでも愚かすぎない?」


「ビクターの影があの王妃に近寄ったらしい。で、ビオレッタの本当の母親である自分は、帝国で優遇されると信じ込ませたそうだ」


「ああ、なるほどね。それで持ち上げて証拠の手紙を書かせたわけね。けど、それってビクター様の独断よね?」


「……ああ、モーリス様は突然王妃から手紙が来たってキレてたからな。相変わらずめんどくせぇ男だよ。自分が手助けしてるって息子にバレたくなかったらしい。あとはモーリス様に任せるって言ってたぜ。モーリス様は、あの国を丸ごと取るつもりらしい。良いのか?」


「わたくしはあの国に未練はないわ。マリーが少し心配だけどね。マリーのお子さん、探せないかしら? あと、お父様やお兄様はなんて言ってる?」


「マリーの件は、俺に考えがある。父上も兄上も賛成だよ。帝国に恩を売るのも悪くないだろうってさ。そのかわり、関税の撤廃を要求するみたいだぜ」


「抜かりないわね。モーリス様はビオレッタの生まれを利用するつもりね?」


「ああ。けど、俺は娘を利用したくない」


「……それは、わたくしだってそうよ。けど……」


「分かってる。俺達は王族だ。私情を優先するなんて許されない。ビオレッタは既にモーリス様に自分を利用するようにって言ったそうだ。あとは、子ども達に任せよう。まずは結婚式を終わらせるそうだ」


「そう。分かったわ。けど、見守らせてもらう。それくらい許されるわよね?」


「俺達が同行する事は認めさせた。マリーも同行させる。家族を探す時間を作る。もちろん護衛もつける」


「さすがクリスね。ありがとう」


「俺と結婚して、良かっただろ?」


ビオレッタがあの国に行けば、いくら愛するモーリス様がいても悲しむかもしれない。


ビオレッタは繊細で優しい子だ。きっと悩んでるわ。


本当に、王族って面倒。


たった一人を愛せれば、モーリス様が無理をする必要はないのに。ビオレッタも、自分の役割を分かってるから辛い気持ちを押し殺して自分を利用する。


ビオレッタを王族にしたわたくしにも、責任はある。ビオレッタを平民の養女にすれば、ビオレッタをドロドロとした政治的なやりとりに利用しなくて済んだのに、わたくしがビオレッタと離れたくなかったから……。


わたくしに出来る事はあまりない。だけど、傷つくかもしれない娘の側に居させて欲しい。


「クリスは最高の旦那様よ。ねぇ、ビオレッタはどこまで知ってるの?」


「全部だな。父親が分からない事も察してる。モーリス様が、慰めてくれたみたいだけど……」


「ビオレッタと話すわ。お願い、一緒にいて」


「分かった。ちゃんと話せ。俺達は、ビオレッタを本当の娘だと思ってるんじゃない。ビオレッタは、俺達の娘だ」


本当の娘と思っているだけでは足りない。わたくしも、クリスも、ビオレッタの親として生きてきた。これからもずっとそうする。


誰がなんと言おうと、ビオレッタはわたくし達の大切な娘なのよ。

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