第5話 偽りの家族【スコット視点】※流血シーンあり
「アメリア、この手紙について説明しろ」
ああ……やっぱり宰相は嘘吐きではなかった。妻の顔を見ればどちらが嘘吐きなのかすぐに分かる。
「違う……違うの……話を聞いて……お願い……スコット……」
以前は可愛いと思った仕草も、声も、顔も。全てが嘘に見えて気持ち悪い。
「ビオレッタとミリアの父親は誰だ?」
「……もちろん貴方よ!」
やっぱり嘘、か。滑稽だな。王である私を平民如きが馬鹿にするとは。
「アメリアは演技が下手だな。まぁ、だから好きになったんだけどな」
「演技が……下手……?」
「ああ、あの劇団でダントツに下手だったよ。だから、君に惹かれた。出来の良い婚約者より、頭の悪い女の方が扱いやすかったから」
「はぁ?! ふっざけんじゃないわよ! アンタだって国王って割に権力も金もない男だろうが! アレもヘッタクソだし、いつまで経っても子どもは出来ねぇしよぉ! こんな事なら、お前なんかと結婚するんじゃなかった! お前と出会わなきゃ、アタシはもっと幸せだった!」
「……それがお前の素顔か」
「ああそうだよ! 劇団にテメェが寄付をしたせいでアタシの人生は狂った。お前なんかと結婚したくなかった! けど、アタシに残された道はアンタに媚びる事だけ。出来の良い子はあの王女様に取られちまうし、残った方は出来損ない! テメェ、ミリアを挑発したんだって? 血は繋がってねぇけど、やっぱ育てた奴がクズだとクズになんのかねぇ。親子揃って馬鹿じゃねぇの? あの女の旦那、何度も城に来て、釘を刺してただろ。あの女とビオレッタを溺愛してんの、バレバレだよ。あの女はラッキーだよなぁ。テメェみたいなクズと縁が切れてあんな良い男と結婚できてよぉ」
「このっ……」
「駄目よぉ。アタシに手を出したらビオレッタの婚約者が黙ってないわよ。あの王子様、ビオレッタにベタ惚れなんだから。アタシはビオレッタの母親よ。帝国に行くわ。父親はテメェじゃねぇんだから、アンタはこの国でピィピィ泣いてろよ。あははっ……ははっ……!」
「……おかあ、さま?」
「ミリア?!」
「どういう、こと? わたくしは……出来損ないなの……?」
「そうよ。アンタなんか要らない。偽のお父様とこの国で滅びな」
ショックを受けたミリアを、宰相親子が守ろうとする。衛兵も、ミリアを守る。なんでだ……その子は私の子ではない!
そう叫んだが、冷たい目をした宰相の息子がずっとミリアの耳を押さえていた。ミリアは必死で私に縋ろうとする。不義の子など興味がない。ミリアを蹴り飛ばそうとしたら、宰相がミリアを庇い倒れた。怯え、泣き、暴れるミリアを連れて宰相の息子は部屋を出て行った。
付いてきた屈強な衛兵達は腹を抱えて苦しむ宰相を大事そうに抱え、私と妻を拘束し、私の剣を奪い、出て行った。部屋に鍵までかけられた。たくさんいた侍女達も、いつの間にか誰もいなくなっていた。
その間、ずっと笑い続ける妻は不気味だった。
「あーあ、閉じ込められちゃった。アンタなんかと結婚するんじゃなかったわ」
「ふざけ……るなっ……!」
こんな奴だとは、思わなかった。私は、騙されたんだ。怒りで目の前が真っ赤に染まる。
暴れると、拘束が解けた。そうだ、私は王だ。本気で拘束される訳ない。きっと、不義の子であるミリアを殺すんだ。だから、宰相達は私に残酷な処刑を見せないよう気遣ってくれたんだ……。
冷静になり視界が開けた時、テーブルの上で不気味に光るアイスピックが目に留まった。
拘束されて身動きの取れない憎い妻を、私が処刑してやる……!
私は、アイスピックに手を伸ばした。床に真っ赤な血が広がる。下品に笑う妻が、動かなくなる。
この時、妻に手を出さず踏みとどまっていれば……幽閉だけで済んだのに。泣いているミリアを慰めれば、幽閉されなくて済んだかもしれないのに。
今更後悔しても、時は戻らない。
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