第9話 アメリア視点

「なんで! あたしは正妃様よ!!!」


「正妃様には義務も責任も伴います。勝手に出歩く事はおやめください。きちんと学んで頂かないと正妃様を表に出せません。ノルマが終わるまで、部屋から出ないで下さい」


頭の禿げた宰相が、怖い目で睨む。なんで! なんでよ! あの女は、華やかな場にスコットを連れて行っていたじゃないの!


あたしのものなのに、ドレスも宝石も貸してやれってスコットが言うから貸してあげてたのに!


まぁ、あのドレスも宝石も、あの女が持って来た物だと知ってたけどさ。結局、怖い宰相が全部あの女に返してしまった。少しくらい良いかなって気に入ったアクセサリーを隠しておいたんだけど、宰相の命令で大勢の人達が部屋を荒らして探し出してしまった。スコットに泣きついても、無駄だった。スコットが王命だと叫んでも、王命は拒否できるように法律を変えましたと宰相に冷たく言われ、誰もスコットの命令を聞かない。


スコットは王様なのに、全然偉くない。王様ってなんでも思い通りになるんじゃないの? 気に入ってたアクセサリーを全て持って行かれた時は悲しくて泣いたわ。だけど、新しいものは買って貰えなかった。予算がないって宰相に言われたわ。今まであたしが買い物をしていたお金は、あの女の父親がくれたお金だったらしい。あーもう、それなら側妃のままの方が良かった。


それにしても、嫁入り道具を全部記録するなんてケチくさい女だわ。だから、スコットに嫌われるのよ。正妃様のくせにスコットに愛されない女の物は全部、あたしが有効活用してやろうと思ってたのに。スコットもいろんな物をくれるけど、あの女の持ち物は全て別格だった。ドレスも綺麗だったし、宝石は全て見た事がないほど美しくて大きかった。


女優をやってた時より、幸せにならないと意味がないのに。正妃なら、幸せだと思ったのに。劇団でなかなか主役を貰えなかった時、たまたま観に来たスコットに気に入られてからあたしの人生はおかしくなり始めた。スコットがあたしを主役にするならお金を出すって言うから、念願の主役が貰えるようになった。


けどそれがいけなかったみたい。泣き顔がわざとらしいとか、棒読みだとか、主役になれるのはパトロンのおかげだとか言われるようになった。女優仲間には、男に媚びるのが得意だって笑われた。


違うのに。あたしの実力で主役になれたのに。そう思ったからスコットにお金を出さないでと頼んだ。劇団のみんなに、実力を認めさせたかった。だけど……あたしはそんな実力、なかった。


結局、スコットにお金を出してもらいまた主役を勝ち取れるようになった。悪口を言う女達を黙らせようと劇団の男達に媚びるようになった。そしたら、女達も表立って文句を言わなくなった。主役のあたしを、立ててくれるようになった。


スコットがどんどんお金を出してくれるから劇団は潤うようになったけど、演技が楽しいと思えなくなった。だから、スコットに愚痴を言った。そしたら、スコットが側妃にならないかと誘ってきた。もうすぐ結婚するけど、親が決めた婚約者なんて愛せない。あたしが良いって言ってくれた。劇団を辞めれば、スコットは劇団にお金を出さない。劇団のみんなの鼻をあかせる。そう思った。案の定、あたしが辞めると聞いてみんな必死で止めてくれた。すごく、満たされた気持ちになった。ざまぁみろ、あたしはもう王族になったんだ。あんたたちとは違う。すごく自分が偉くなった気がした。


側妃になってからは幸せな日々が続いたわ。だけど、正妃が邪魔だった。表に出るのは、スコットに愛されていない嫌な女。あたしはこんなに、スコットに愛されているのに。使用人の誰かが、早く子が産まれると良いですねと言った。そうか、跡取りを産めばあたしは正妃になれる。そう思った。だけど、あんなにスコットに愛されてるのに子どもはできなかった。多分、スコットは……。このままじゃ、あたしはずっと正妃になれない。だから、劇団仲間や見た目の良い男を選んで種を貰った。少しお金を出せば、みんな優しくしてくれた。


やっと妊娠して、痛いのに頑張って産んだ子は女の子だった。


男じゃないと、跡取りになれないと思ったあたしはあの女に産んだ子どもを押し付けた。成長してスコットに似ていないと言われたら、あの女が不貞したんだというつもりだった。あたしは、何も知らなかった。女の子でも、王位を継げた。それなら、ビオレッタをあたしが育てれば良かった。あの女には乳母を一人しか付けなかったけど、スコットに強請ればあたしならいっぱい乳母をつけて貰えたのに。


生まれたばかりの時は可愛いと思えなかったビオレッタは、すごく可愛くなっていた。今頃は、もっと大きくなっているだろう。最後に見たビオレッタの笑顔が忘れられない。あたしが産んだ、あたしの子なのに……。


ビオレッタを手放すと書類にサインした事を忘れて、スコットにビオレッタに会いたいと泣きついた。だけど、全部宰相が止めてしまう。あたしは部屋から出る事もできなくなった。優しかった使用人も、冷たくなった。正妃だと思っていたのに、そんな事も言われた。正妃様を追い出した悪女。そんな陰口も言われている。劇団で言われた女優仲間の陰口なんて可愛いものだった。使用人には、貴族も多い。貴族は陰湿だと分かった。こんなことなら、売れない女優をしている方が良かった。

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