第8話 クリス視点3
俺は、腹を括ってビクター様と親しくする事にした。
「もう、ビクターで良いよな。敬語も無しがお望みならそうする。なぁ、なんでこんなに大事な秘密を俺に言ったんだよ」
「秘密を共有した方が仲良くなれるじゃない。クリスと仲良くなる方がなにかとお得だと思ってさ」
「俺は元々単なる貴族だ。陛下にも睨まれてたし、仲良くするメリットがねぇだろ」
「単なる貴族が、王配でもないのに王族に婿入りなんて凄いじゃないか。陛下の大事な末娘との結婚を許されて、あの姉上にも気に入られたみたいだしさ。それにね、君の子は将来あの国を継ぐかもしれないでしょ?」
可愛い娘を引き合いに出されたら黙っているわけにいかない。
「ビオレッタに手を出すんなら、容赦しねぇぞ」
「怖い怖い。手なんて出さないよ。ただ、情報は欲しいかな。あの子は幸運だったよね。あんな親に育てられたら大事にされなかった。父親も、誰だか分かったもんじゃないしね」
「……どういう意味だ」
「薄々、気が付いてるんじゃないの? ビオレッタ嬢の父親は、あの男じゃないよ」
少しだけ違和感はあった。だけど、ビオレッタはもう俺の子だ。気にしなければ良い。そう思っていた。だけど、帝国がビオレッタを調べているなら話は別だ。
だからジェニファー様は俺を王族にしたのか。キャシィがビオレッタを大切にしているのは会えば数秒で分かる。妹が大事にしている子を守るには、夫の地位は高い方が良いと思ったのだろう。
とりあえず、ビオレッタの父親を確かめるか。
「ビオレッタの父親は誰なんだ?」
「知らない。正確には、分からない。たくさんの男と関係を持ってたから、父親が誰か分からないんだよ。父親は不明、母親は男に愛想を振り撒くだけが取り柄。ねぇ、そんな親の子でも良いの? 王族どころか、貴族の血が一滴も入ってない子を大事なキャスリーン王女の子として育てる気?」
どこまで本当が分からねぇな。とにかく、ビオレッタに手出しはさせねぇ。
「生まれは関係ねぇな。ビオレッタは、俺達の子だ」
「言い切るね。キャスリーン様との間に子が出来たら、ビオレッタ嬢が邪魔になったりしない?」
探るような目で問いかけるビクター様は、なんだか悲しそうだ。
「ビオレッタが成人して独り立ちするまで大事に守るに決まってんだろ。独り立ちしたって一生俺らの大事な子だ」
「ふぅん。うちの親とは大違いだ。ビオレッタ嬢が心底羨ましいよ」
「……帝国も、色々あんだな」
「まぁね。僕は出来が良かったから好きな子を正妃にできたし、部下を選ぶ事も出来ただけ。他の王族と比べたら、かなり好きなようにやらせて貰ってる。自由を得る為に、血の滲むような努力をしたし、今だって気は抜けない。姉上も飄々としてるけど、毎日必死だよ」
「そんな中、キャシィの為に尽力して下さったんだな」
「そう。ちょっと先走ったけど、姉上はキャスリーン王女を大事にしてる。だからさ、僕がクリスと仲良くなれば様子を見て来て欲しいって頼まれると思うんだよね。正直、国にいるよりこっちにいる方が気楽でさぁ。ねぇねぇ、次は側妃の子達を順番に連れて来て良い? たまには外で恋人とゆっくりさせてあげたいじゃない」
「はぁ……うちは別荘じゃねぇんだぞ」
「分かってるよ。けど、僕を呼んでくれれば定期的に情報をあげるよ。ビオレッタ嬢の母親も気になるでしょ。あの母親、最近ブツブツとビオレッタ嬢の名前を呟いてるよ。あの国、警備が緩いから密偵は探り放題だけどさ……目や耳は多い方が良くない?」
「澄んだ目や、塞がれてない耳ならな」
「それを判断するのは、王族の仕事だよ。僕を信じるか信じないか、自分で決めて」
これから長い付き合いになるだろう。勘ではあるが、ビクターの言葉は信じて良いかもしれないと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます