第7話 クリス視点2

「僕の正体がバレた理由は聞かなかったけど、今なら聞いても良いかな」


渡されたワインを飲みながら、ビクター様と会話を続ける。彼はとても楽しそうに笑っているが、その笑みは裏がありそうに見える。


ここは、正直に言った方が良さそうだな。俺の動体視力はかなり良い。出来れば隠しておきたかったが、彼になら伝えても良いだろう。この人が本気で調べればすぐバレるだろうしな。


「ビクター様は、いつも耳にイヤーカフを付けておられたでしょう。普段は髪で隠れていましたが、模擬戦の時にたまたま見えたんです。王家の紋章があったので王家の方だと分かりました。結婚前の王族の方は身分を隠して城で仕事をしていると聞いておりましたので、特に驚きませんでした」


「そうか。上手く隠したつもりだったんだけどなぁ。他の騎士達は気が付かなかったから、クリスはよっぽど目が良いんだね。王族は必ず紋章のある装飾品を身に付けておかないといけないなんて、面倒なルールだよ。ま、あれだけ子どもがいたら印を付けないと分からないんだろうけど」


「ビクター様は印など要らないでしょう。ジェニファー様がキャシィを託そうと思うくらい信頼されているご様子ですし」


「まぁね。けど、王族がみんな僕みたいに優秀な訳じゃないから。この印は、鎖なんだよ。王家に不利な事をしたら付ける事を許されなくなり、王家から切り捨てられる。廃嫡された奴等も大勢いるしね。父上は子どもに興味がないんだ。王家の役に立つか立たないか、それだけで判断される。さて、そろそろ本題に入ろうかな。その前に、対等なんだしお互い呼び捨てにしようよ」


「……なんの罠ですか」


「罠だなんて酷いなあ。僕と仲良くすればお得だよ。キャスリーン王女を僕と結婚させるより、クリスと結婚させて良かった。そう思われないといけないでしょう? ちゃんと、自分の価値を上げないと」


確かに、キャシィの隣に立つにはそれなりの地位が必要だ。ビクター様と親しくなれば、うるさい貴族も黙るだろう。


「……そう、ですね」


「慣れないのは仕方ないけど、クリスはもう王族なんだよ。頑張ってよ」


「どうしてそんなに、俺を気にかけて下さるんですか?」


「クリスに感謝してるから。僕ねぇ、側妃はいらないんだ。けどさ、あんな国の王子……あー、今は王弟か。兄上が即位してまだ時間が経ってないから混乱しちゃうよ。みんなずーっと僕の事を王子って呼ぶからさぁ。とにかく、うちの国って大きいじゃない。だから、政治的に色んな国と繋がりをもたないといけなくて。そうなると、簡単なのは結婚でしょ」


「まぁ……確かに、そうですね」


「今回は違うけど、姉上のお願いは聞くしかなくて。姉上、めちゃくちゃ兄上に愛されてるからね。けど、僕はこれ以上側妃が増えるのが嫌だったんだ。どうやって断るか、ずーっと考えてたんだけど良い方法がなくて。ホラ、僕って優秀だから姉上達の信頼も厚いんだよね。仕方ないかなって売られる子羊みたいな気持ちで来たら、クリスとキャスリーン王女が結婚するって聞いて心底ホッとしたんだ。クリスが急いでくれたおかげで隙もなくなって、姉上に貸しを作れたしね。今回の事を利用して今後は結婚を断ろうと思ってるんだ。姉上の話なら、兄上も聞いてくれるから」


「あの、いくらなんでも側妃の方々に失礼ではありませんか?」


「良いの良いの。僕の側妃達はね、身分違いの想い人がいる子ばっかりなの。だからね、恋人同伴で嫁いで貰ったんだ。子どもさえ産まなきゃ、恋人と過ごせるって誘ったの。別れるか、逃げるか、心中するか……それくらい追い詰められてる恋人達に手を差し伸べれば忠誠心も植え付けられる。僕に不利な事は絶対にしないよ。恋人も使える男じゃないと駄目だけど、王族と会える男は大抵優秀だし、役に立ってるよ」


「は……?!」


「これ、誰も知らないから内緒にしてよ。姉上や兄上にバレたらとんでもないことになるし。僕の専属の密偵、結構優秀なんだよー。国同士の縁が繋がれば兄上も父上も文句ないから、相手は僕が選んで良いんだ。だから、しっかり調べて身分違いの恋人がいる子だけに結婚を申し込むの。結婚してからも、恋人との時間を毎日とってあげるんだよ。僕の宮は隠し通路だらけだから、こっそり会うのは楽勝なんだよね」


えぐっ! なんだそれ! お互い納得してりゃ夫婦としては問題ねえんだろうけど……国としては問題ありまくりだ。だから、ビクター様は正妃様以外と子ができねぇのか。第四王子なら後継の問題もねぇから無理に子を産まなくても良い。帝国の側妃で子を産む女性は意外と少ない。だから、おかしいとも思われない。


マジかよ! こんなの、表沙汰になったら終わりじゃねぇか。なんでそんな事、俺に言うんだよ!


ビクター様は、腹黒い笑みを浮かべて俺に笑いかけた。


「クリスは、口が硬いもんね。こんな秘密を知っちゃったら、僕と仲良くするしかないよねぇ」

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