第4話 再会

「キャスリーン王女……? どうしてうちに……?」


「兄さん、キャスリーン様と会った事があるの?」


「あ、ああ。以前少しだけな。まさか……ピーターのお見合い相手がキャスリーン王女とは思わなかった」


「まだお見合いじゃないよ。今日はお会いしただけ。内密なんだから誰にも言っちゃ駄目だよ。だから兄さんがいない時にしたのに、なんで帰ってくるのさ」


「すまん。王太子殿下の予定が変わって……」


「キャスリーン様、ビオレッタ様、兄が失礼しました。こう見えても兄は王太子殿下に仕える騎士ですから、王家に忠実です。本日のことは誰にも他言しません。ね、兄さん」


「もちろんです。失礼しました。私は席を外しますので、弟とゆっくりなさって下さい」


「あ……いえ、もうお暇するところでしたので……」


「ふぇ、わぁああん! まっまー!」


「ビオレッタ、どうしたの?」


ビオレッタが急に泣き出した。ど、どうしましょう。これじゃ帰れない。いつもはマリーが抱けば泣き止むのに、マリーが宥めても泣き止まない。


「まっま、まっま!」


「ビオレッタ、大丈夫。大丈夫よ」


ビオレッタをわたくしを求めている。急いでマリーからビオレッタを受け取り、宥める。


「まっま、まっまー!」


「もしかして……ビオレッタ様、兄が怖いのですか?」


「む、そうかもしれん。俺は席を外す。キャスリーン様、ビオレッタ様、失礼します。乳母殿も怖がらせてすまなかった」


「あ……クリス様……!」


行ってしまわれた。もう会えないと思っていたのに。もっと、話がしたかったのに。


「まっま!」


「ビオレッタ、ごめん、ごめんね。大丈夫よ」


クリス様が部屋の奥に姿を消すと、ビオレッタは落ち着いた。


「兄は身体が大きいですからね。大丈夫ですよビオレッタ様。ああ見えて、兄は優しい人なんです」


知ってますわ。あの時も、クリス様はお優しかったですもの。まさか……貴族だったなんて。平民だと、思っていたのに。そう、言ってたのに。


「きゃう! きゃはは!」


ビオレッタは、ピーター様が宥めるとご機嫌になった。


「キャスリーン様。お時間は大丈夫ですか?」


「はい。まだ大丈夫ですわ」


「では、もう少しだけビオレッタ様と過ごしてもよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろんです」


「うちの庭園をご案内します。きっとビオレッタ様も気に入って頂けると思います。ビオレッタ様、参りましょう」


なかなか自分で歩こうとしないビオレッタが、ピーター様に手を引かれて歩き出した。庭園に行くと、クリス様がいらっしゃった。


「す、すいません! すぐ消えます!」


「大丈夫だよ兄さん。ビオレッタ様、うちの兄です。大きいけど、怖くないですよ。ほら、兄さん、笑って」


「む……こ、こうか?」


「きゃは! きゃー!」


ビオレッタがクリス様のほっぺたをペシペシと叩く。クリス様が、目を細めて笑っている。


「ビオレッタ様、あちらに珍しい花があるんです。見に行きましょう。キャスリーン様はお疲れでしょうし、少しお休み下さい。ここにお茶を持って来て。兄さんはキャスリーン様のお相手をよろしくね。乳母殿は、歩かせて申し訳ありませんがついて来て下さい」


テキパキと指示を出したピーター様は、ビオレッタとマリーを連れて庭園の奥へ消えて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る