第3話 お見合い
「ピーター・ラッセル・マクミランと申します。お会いできて光栄です」
お父様が探してくれた男性は、侯爵家の当主でわたくしと同じ二十五歳の男性。お父様が調べ尽くしただけあって、とても誠実そうな方だ。
結婚していなかったのは、当主を継ぐかどうかはっきりしなかったからだそう。ピーター様のお兄様が騎士をなさっていて、なかなか家に戻られない日々が続いたそうだ。お兄様が跡を継がないと決まったのが、二年前。それから当主になる為に勉強を続けておられて、結婚するタイミングを逃してしまったそうよ。
いきなりお見合いではなく、まずご挨拶をしてからという事になった。城で会うと目立つので、お忍びでピーター様のお屋敷にお邪魔している。お父様から、ピーター様以外にも何人か会ってゆっくり決めると良いと言われている。今のところ候補はピーター様だけだが、半年間で何人か話をする予定になっている。
もちろん、ピーター様と気が合えば他の方とは会わない。全て、わたくしの意思で決めて良いと言われている。
いつものお父様なら、何人も候補を決めて選ばせるから、お父様はピーター様を信頼しておられるのだろう。
「キャスリーン・オブ・モーレイです。よろしくお願いします。こちらは、娘のビオレッタです」
「まーま、あーう」
ビオレッタを連れてくるか、とても迷った。先方に話をして、ビオレッタが同席しても良いか聞こうと思っていたら、あちらからビオレッタも一緒にどうですかとご提案頂いた。とてもありがたかったわ。
「こんにちは。ビオレッタ様」
「きゃは! きゃーう!」
ピーター様は、ビオレッタを目をじっと見て話をして下さる。ビオレッタは嬉しいのか、ピーター様の頬をペチペチと叩く。
「こら、駄目よビオレッタ。申し訳ありません」
慌ててビオレッタを引き離そうとしたが、ピーター様はニコニコと微笑んでおられる。
「良いんです。気にしないで下さい。ビオレッタ様は可愛らしいお方ですね。キャスリーン様にそっくりだ」
「あ……ありがとうございます」
今日は単なる顔合わせだから、ピーター様はビオレッタを産んだのはわたくしだと思っておられるのかもしれないわ。ビオレッタとわたくしは、血が繋がっていないから見た目はあまり似ていないのに。
気を遣って下さったのかも……。
ピーター様は、終始穏やかで優しい話し方をする人だった。ビオレッタはずっとご機嫌で、ピーター様にべったりだったわ。
ピーター様との結婚が決まった訳ではない。けど、こんなにビオレッタが懐いているなら、彼と結婚する方が良いかもしれない。ピーター様はビオレッタが何をしてもニコニコ笑っておられた。それに、どことなく安心するお顔をなさっている。なんだか懐かしい。不思議な安心感があるお方だ。
お父様が調査したのなら、人柄だって問題ない。ピーター様と結婚すれば、わたくしも、ビオレッタも幸せになれるかもしれない。
歓談の時間はあっという間に過ぎて、帰りたくない。そんな気持ちになった。
「あ……あの。キャスリーン様……よろしければ、こちらをお持ち帰り下さい」
ピーター様が真っ赤な顔で渡して下さったのは、美しい花束と、綺麗な髪飾り、それから美しい積み木。
「ビオレッタの分まで……」
「どれが良いか分からず、積み木にしました。良かったら遊んで下さいね。ビオレッタ様」
「きゃは! きゃーう! あーあと」
ビオレッタがぺこりと頭を下げると、ピーター様が笑った。
「ありがとうございます。とても嬉しいですわ」
「こちらこそ、本日はありがとうございました」
屋敷を出ようとした時、玄関のドアが開いて背の高い男性が入って来た。
「ピーター、今帰った」
「おかえり。兄さん」
そういえばピーター様は騎士のお兄様がいらっしゃったわね。ご挨拶しようと顔を見て、驚いた。
「クリス様……?」
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