第二章 新しい生活
第1話 養子縁組
国に帰ると、今までしていた料理や家事をしなくて良くなった。コックの料理は、やっぱり美味しい。
わたくしは王女だから、政務を行なっているわ。久しぶりに頭を使うのは大変だけど、楽しい。仕事が終わってビオレッタの顔を見ると、全ての疲れが吹っ飛ぶの。
ビオレッタが笑うと、みんなが笑顔になるのよ!
とても穏やかな日々を送っているわ。
ビオレッタは離乳が終わり、食べ物以外にもいろんなものに興味を持つようになった。離宮から出られなかった以前と違い、様々な物を見せたり経験させたりできるので以前より表情が明るくなったわ。
もう、可愛くて可愛くて。
お父様が乳母を五人もつけてくれたから、ゆっくり育児ができる。外出も、乳母がたくさんいれば簡単だ。
ビオレッタに毎日絵本を読んでいるの。まだ文字は読めないけど、少しずつ分かっているみたいで、絵本の文字を指で触れる事が増えた。
マリーによると、早い子は二歳くらいで文字を読むらしいわ。普通はもっと遅い。ビオレッタはまだ一歳半だし、興味を持つように部屋に文字を貼ったりはするけど、無理に覚えさせないよう気をつけているわ。
乳母は、それぞれ得意分野がある。歌を聞かせたり、物語を聞かせたり、絵が上手い乳母もいるわ。
たくさんの乳母に懐いて幸せそうなビオレッタだけど、やっぱり一番懐いているのはマリーなのよね。機嫌が悪い時にマリーが来るとすぐにご機嫌になるの。だから、乳母のリーダーはマリーにお願いしているわ。以前より休みも取れて、元気そうだからホッとしてる。
仕事が終わってビオレッタに癒されていると、お父様が訪ねて来た。
「キャスリーン、ビオレッタの養子縁組が済んだ。少々ごねられたので金を払って黙らせた。後できっちり回収しよう」
「まぁ、厚顔無恥ね」
「全くだ。さぁ、これからの事を考えよう。キャスリーンは、あの国をどうしたい?」
「国王だけじゃなくて貴族も無能だし……潰したいわね。領地が増えるのはいい事だもの。けど、ビオレッタの故郷なのよね」
「友好国に協力して貰った手前、何もしないとうちが舐められる。しかし、うちが全てを併合してしまうのもまずい」
「そうよね。うちがすぐにあの国を手に入れてしまったら、虐げられてる娘をダシに領地拡大を目論んだと思われる。最悪、領地の取り合いになって争いを生むわ。武力に訴えるのはナシでしょう?」
マリーを悲しませたくないわ。あの国にはマリーの息子さんもいるんだから。
「武力に訴えるのは無しだ。あの愚王と同じ舞台に立つつもりはない。慰謝料は請求するが、支払い能力があるか……あやしいな」
「慰謝料と一緒に、神殿を通じて正式にわたくしの持ち物を返還するように通達しましょう。返してくれば良いし、返さなければ更にあちらに瑕疵をつけられる」
どの国にも属さない神殿は、各国の争いを仲裁する裁判所のような機能を持っている。神殿を運営している者達は定期的に入れ替わり、汚職が起きにくい仕組みが作られている。
わたくしは幼い頃から神殿があるから当たり前だけど、できるまで紆余曲折あったそうよ。先人達が争って、話し合って、ようやく今の仕組みができた。
戦争も起きるけど、戦争を仕掛ける国は野蛮だと蔑まれる。だから、お父様は戦争をしない。
そんなお父様でも、譲れない事はある。わたくしがあの男の思惑通り処刑されていたら、間違いなく戦争になった。その場合、お父様が蔑まれる事はない。娘を殺されれば怒って当たり前だし、他国からの批判は起きない。下手したら、複数の国が攻めてくる可能性もあるわ。うちの国の方が領地も大きいし軍も強いから、勝ち目はない。宰相が青ざめていたのは、そのことを分かっていたからよ。
「それが一番平穏で、全てを搾り取れる方法だな。だが、かなりの時間がかかるぞ。下手したらビオレッタが大きくなるまで解決せんかもしれん。神殿は調査が遅いし、裁定も遅い。途中で人が変わればまたやり直しになる事もザラだ。あまりやりたくないが、早める手もあるにはあるが……」
「そこまでしなくて良いわ。ビオレッタはここにいる。もう二度と、危険な親達に会わせる気はない。 ビオレッタを守る為にも、正式に訴えを起こす方が良いわ。数年もすればあの王妃様の酷さが広がるでしょ。ビオレッタはわたくしが産んだ事にするわ。けど、ビオレッタの出自がバレても問題ないようにしておきたいの。だから、次にわたくしが結婚する方には全てをお話したい。それくらい信用できる方と結婚したいわ」
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