海沿いの田舎町、湖のほとりに住む不老不死の男と、その彼に会いに行く息子のお話。
現代もののお話です。
ジャンルの通りホラーであるものの、個人的には現代ドラマ的な読み味がとても好きな作品。
いわゆる「ちょっと不思議」な要素もありつつも、がっつり骨太な〝父と息子の物語〟でこちらの頭を殴りつけてくれます。
好きなところはいろいろあるんですけど、単純にこのお父さんがもう大好きです。
たぶん身近にいたら好きになれない……と理性では理解しながらも、でもなんだかんだでつい惹かれちゃう感じのダメさ+悪さ加減。
平たく言うと「どこかだらしない人たらしの男」という印象なのですけれど、まさにその通りに周りの人々が惹きつけられているのがもう本当に好き。
それは主人公しかり、また彼と関係を持った女性たちしかり。
こんなのが狭い田舎町にいたらそりゃ親戚関係ぐちゃぐちゃになっちゃう、という、この物語の舞台そのものである街の閉塞感がもう最高でした。
読み応えというのか、読んでいてものすごくおいしい味がする……。
どうやらしっかり主人公の中に根付いている執着、「決してはっきり好きとか嫌いとかの言葉では語られない父への想い」も好きです。
そして、それと同じものがまた別の息子たちにもあるのだろうな、と読めてしまうところも。
どこかおぞましいようでありながら、でもそう言ってしまっては彼らに申し訳ないような、分厚い読み味が嬉しい掌編でした。