一級料理人ニケ
「うーむ」
目の前に転がっている、ほんの少し前まで近隣住民を悩ませていた魔物こと黒焦げ暗黒物質を見て改めて思う。
魔術って、ずるいよね。
「モモ、いくらお腹がすいてても、それは食べない方がいいと思いますけど」
「食べられるかどうかって悩んでたんじゃないよ?」
大抵のものは食べられるように仕込まれたけど、流石に魔物は食べない。魔物は大抵の場合食べても毒にしかならないらしく、師匠からも絶対に食べるなと強く言われているのだ。
腹ぺこさんはどちらかと言うとニケちゃんの方だし。
「魔術ってすごいなーと思って」
「は?」
「だって魔力があれば使えるんでしょ?それでこの火力ってずるいよね」
もちろん勉強もしなきゃなんだろうけど、それでも距離を保ったまま威力のある攻撃が出来るというのは羨ましい。そういえば、師匠は遠当てとか言って遠くの獲物に攻撃を当ててたっけ。でもあれも多分師匠がおかしい。
「たまに勘違いする阿呆がいますけど」
直球なのか変化球なのか分からないけど、とりあえず馬鹿にされた。
「いくら魔力があろうと、それだけで魔術は扱えないのです。ぽんと生肉を置いておいても食べられないのと一緒です。火と調理器具、調理法が必要なのです」
ニケちゃんの例えによると火が魔力、調理器具が術式で調理法が詠唱ということらしい。ちなみに素材だったものは今も煙を上げている。
術式というのは目に見えるように描くものや頭の中で描くものがあって、後者は手軽に魔術を扱える反面、細部まで術式を把握していないと場合によっては自爆してしまうとのこと。
「え、自爆とかあるの?」
「らしいですよ。元になる調理法が完璧でも、料理人がぽんこつだと途中でへまをして火が自分に燃え移ってあの世行きです」
「うわぁ」
「まぁ、普通はそんなことになりませんけど。事故を起こすのはまだ能力の無い子供くらいのもので、軽く怪我する程度です。身の丈を知るための通過儀礼です。成長すればそうならないように予防線くらい張っておくものなのです」
「あれ、もしかしてからかわれた?」
「そういう事もあるという話です。もし私がそうなったら、モモも巻き込んで派手に散ってやります」
「怖いなぁ」
想像して思わず苦笑する。冗談なんだろうけど。ニケちゃんが失敗するところなんて想像ができないし。
「魔術というのはモモが思ってるほどお手軽には扱えないのです。モモは大人しく剣を振り回していればいいのです。分かったら、早く帰ってご飯にするのです。報酬で肉買うのです、肉」
魔術は凄いけど、やっぱり腹ぺこはニケちゃんだと思う。
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