お人形遊び

「せいやぁ!はっ!」

 上段から下段、くっと切り返して湾刀を振るう。手応えはなし。視界に樹木よりも濃い影が映る。飛んで躱されたのか。数歩分後ろに飛んで上からの蹴り落としを避ける。姿勢を低くし、足を撥条ばねのように弾ませて降りてきた影に突きを打ち込む。

 相手胸元に突き刺さる確かな手応え……の直後、脳天に突き刺さる衝撃に襲われる。

「痛、ちょっと、待っ、痛い痛い」

 べしばしと太鼓を叩くように頭を乱打してくる相手に待ったをかける。

「ちょっと、ニケちゃん、これ止めて!痛い!」

「……仕方ないですね」

 離れた所で座っていたニケちゃんが、溜息を吐きながら私の頭を執拗に叩き続けている木製人形の動きを止めた。完全に停止した人形から湾刀を引き抜き、鞘に収める。

「うう、頭が……。有効打が入ったら止めてって言ったのに……」

「そうでしたっけ」

「そうだよ……。えーと、お薬どこだっけ」

「頭を良くする薬は無いですけど、打撲に効く薬ならこっちにありますよ」

「……前半部分いらないよね?」

 受け取った軟膏を頭に塗り込む。後で髪の毛がごわごわしそうで嫌なんだけどなぁ。年頃の乙女としては髪の毛の品質管理はしっかりしたいところである。

「こんなので修行になるんですか?」

「うん、相手がいるだけでも結構違うよ。仮想の敵じゃ想像を超えないから、あまり実戦的じゃないんだよね」

 実際、今回もある意味で想像を超えてきたし。対人戦を想定していて、あんな反撃は予測出来ない。

「じゃあ、もう一回お願い。次は避けてるだけでいいから」

「はいです」

 ニケちゃんが頷いたのを確認して湾刀を構えると、再び動き出した人形がいきなり背を向けて走り出した。

「……へ?」

「ほらさっさと追いかけるですよ」

「……避けるのと逃げるのとでは意味が違うよ?」

 これだと戦闘じゃなくて狩りじゃない。

 とりあえず全力で追いかけた。

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