うろ覚えほど危険なものもない
「近くに変わったお店があるらしいんだって」
面倒臭いと駄々をこねるニケちゃんを連れ出し、街中で聞いた『最近出来たお店』を目指して歩く。
なんでも上流階級的な雰囲気をなんとなく楽しむお店らしい。ものすごく曖昧な感じがとても気になります。
「どんなお店なんだろうね。料理がすごいのかな、それとも食器とかそういうのにこだわってるのかな」
「どうせろくでもない店ですよ。見出しが『変わった店』の時点でまともじゃないに決まってるじゃないですか」
「良い意味で変わってるのかもしれないよ?面白いとか、斬新とか」
「面白いも斬新も、何も言えないほど微妙な時にも使えますね。あ、今日のモモの私服は斬新で面白いですよ」
「……なんでその流れで言ったの?」
無理矢理連れ出したからか、今日のニケちゃんは普段よりも若干黒い。……変な格好じゃないよ?普通だよ?
「変な店ってあれじゃないですか?」
「うん、そうだと思うけど、変じゃなくて変わったお店だからね?」
軽く窘めつつ、あまり大きくない食堂らしき店の扉を開ける。
「お帰りくださいませ、ご主人様」
「………………」
あれ、聞き間違いかな。今、帰れって言われた?
「どうかなさいましたか?」
「え、あ、いえ、なんでも」
「そうですか」
しどろもどろになる私に首を傾げ、侍女風の衣装を着た店員さんが眉を寄せつつ顎に指を当てる。
「いつもそうなんですよね。お出迎えすると皆さん複雑な表情のまま固まってしまわれて。所作もちゃんと勉強したのですが」
つい、といった感じで愚痴をこぼす店員さん。どうやら、本当に気づいておられないご様子。まあ、丁寧語って難しいよね。
どうしたものかとニケちゃんを見ると、店員さんから隠れるように私の背中に回って首を振った。絶賛人見知り発動中。仕方ない。
「えーと、出迎える時の挨拶は『お帰りくださいませ』じゃなくて『お帰りなさいませ』だと思います、よ?」
「そうなの?」
話を聞くと、知り合いの本職さんに言葉遣いをまとめた手帳を貰ったのだという。本職さんが書き間違えたのか、お茶目な悪戯だったのかは定かじゃないけど、店員さんはそういうものなんだろうと疑わずに使っていたらしい。
「今度本人に会って確かめてくるわ。ありがとうね」
間違っているかもしれない丁寧語を使うのをやめ、店員さんはお礼にと軽食をご馳走してくれた。料理は美味しいんだし、普通に食堂やればいいのにな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます