思い出はいいものばかりとは限らない

「そういえばですけど」

 しゃりしゃりと湾刀の手入れをする私の手元を眺めていたニケちゃんが不意に口を開いた。

「刀剣の類は消耗品と聞いてますが、モモってあまり買い換えたりしませんよね」

「そう?」

 はてどうだったかな、と手を止めて記憶を遡ってみる。前に買い換えたのは確か、岩っぽい魔物を斬ろうとした時だっけ。いい所に差し込んだと思ったら逆に刀が折れちゃって、結局ニケちゃんに粉砕してもらったんだよね。しっかり関節に入れたと思ったのになぁ……じゃなくて、あれからひーのふーのみーの……。

「……ああ、うん、そうだね。結構経つね」

「聞いていた話と違います。モモがおかしいんですか?」

「いや、変人みたいに言わないでよ。物持ちがいいとか手入れが上手とか、いろいろあるよね?」

「どうなんですか」

 訂正してくれる気は無いんだね。

「うーん、単純に使い方の問題じゃないかな」

 消耗品とは言っても、こまめに手入れしていればそれなりの規模の戦場にでも行かない限り急激に劣化するようなこともないし。師匠が現役の頃はそういうのも多かったって話だけど、最近はそういう噂すら聞かない。……いや、師匠もまだまだ若いはずなんだけど。現役の頃って何?今更ながら気になるんですが。

 それはそれとして。

「最近は切った張ったの大立ち回りみたいなのも無かったし、これもまだまだ持つんじゃないかな」

 というより。

「こういう刀類って高いから、そう簡単に買い換えたりしないもんだよ?」

 叩き潰す系の剣は質より量って感じで生産されているから安価だけど、私が使ってる湾刀は比較的新しい製法で、まだまだ流通量が少ないからそれなりに値が張る代物なのだ。

「高いなら普通の剣にすればいいんじゃないですか?」

 うん、普通はそう思うよね。でもね、無理なんだよ。

「いやまあ、……私、これ以外扱えないから」

「は?」

「あのね、なんというかね、師匠から教わったというか教われたのがこれだけでね、いや一応いろいろ試してはしてみたんだけどね?なんかこう、体に合わないというか、なんというか……」

 いつも振っているものよりも大きく重い剣に振り回されている私を見て、師匠が『向き不向きというより無茶無謀の類』と言って取り上げたほど、これっぽちも向いてなかった。一応槍とかも試してみたけど結果は同じ。

 ああ、なんだか思い出してきた。

「いやそもそも私が出来ない子なんじゃなくて師匠が異常なんじゃないですか。刀剣から槍に弓までなんでもござれってそれ人間じゃないでしょう。同じ性能を求められたって困りますよ。そもそもか弱い女の子にそんな重たいもの振り回せるわけないでしょう。何考えてるんですか」

「え、あの、モモ?」

「いつもいつも無茶振りばかりして体型体格ってもの考えてますか?考えてませんよね考えてるはずありませんよね。いやだからそんな長物無理だって言ってるでしょう。やれば出来るってそんなわけないでしょう思ってもないこと言わないでくださいよ分かってるくせに」

「その、すいませんでした」

「無理です無理ですから人間の体はそこから先に曲がるように出来てませんから一回折れば丈夫にって折る気なんですか駄目ですよ馬鹿なんじゃないですか駄目ですってばちょっと待ってってば……」

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