雑談は基本的に爆弾の探り合い
「例えばですが」
静かな時間の中、ニケちゃんが口を開いた。
「今の自分じゃない自分になりたいと思ったことはありますか?」
「ん?」
これまた妙な質問である。とりあえず、体をニケちゃんへと寄せる。
「あの時こうなっていればとか、こうしていればとか。もっと言えば、ここじゃない違う世界に生まれていればとか、思ったことはありますか?」
なんだからしくないというか、ニケちゃんにしては現実味のない話だ。こういう『意味の無い話題』は私の領分のはずなのに、珍しい。
しかし、これまた答えにくい質問である。
答えようによっては面倒くさいことになりかねない。
「うーん、……ないかなぁ」
「ないのですか?」
意外そうな顔。そんなにおかしな答えでもないと思うんだけど。
「んーと、なんというか。師匠曰く、私にとっては今の状態が夢の中に居るようなものらしいから。だから私はいつだって好きなように動くし、いつでも思うように生きているのです」
それが出来るくらいの知識と技術も教えてもらえたし、師匠様様です。……見つけたらぶん殴るけど。
「今の状態が夢の中、ですか」
あ、そこを掘り下げられるのはちょっと面倒くさい。できる限り正直に答えたつもりだけど、引っかかっちゃったかな。
「……うん、いいですね。気に入りました」
……おや?
「モモのお師匠さまもなかなかいいこと言うじゃないですか」
何故かご機嫌になったご様子のニケちゃん。
どういうことか尋ねようにも、私にとっても爆弾が眠っている話題を掘り下げるわけにもいかず、微妙に釈然としないまま話は終了した。
そういえば、ニケちゃんはどうだったんだろう。
違う世界に生まれたかった、なんて思ったりするのだろうか。
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