野宿の日・異常

 次の町に向かう途中の森の中。

「ふんふーん♪」

 機嫌よく鼻歌を歌っているのは私ではなくニケちゃんです。口角は上がり目尻は弛んで、正に上機嫌。

「あ♪」

 普段は出さないような可憐な声にビクッと肩を揺らす。挙動不審な私など意にも介さず、ニケちゃんは小走りに樹の根本へ駆け寄り、しゃがみこんで何かを引き抜きました。

「食材確保です」

 ニケちゃんが『食材』と言うそれは、鮮やかな赤色に白い斑点の混じったキノコです。元とはいえ森の民であるニケちゃんのことを信用していない訳ではないんですが、さっきから冷や汗が止まりません。

 この森は中々に広大で、今日中に突破することはまず無理。つまり、森の中で夜を明かすことになります。当然、食材の確保も森の中で行うしかないわけでありまして。

「ふんふ〜ん♪大量ですよ~♪」

 森こそ我が独壇場と言わんばかりの勢いで、常人なら手を出さないような『食材』ばかりを採集していくニケちゃん。

 嗚呼、その所作は天使のようであるのに、どうしてその背後に大鎌を携えた死神が見えるのか。

「モモ、どうかしましたか?」

 くりっとした眼差しをこちらに向けて首を傾げる。

 その愛らしさに、今日も私は敗北するのだ。

「ううん、なんでもないよ」

 頑張って調理しよう。

 せめて、味はまともだといいなー。

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