野宿の日・日常

「そおぉ―――りゃあ!」

 湾刀一閃。うなり声を上げながらずんぐりむっくりした巨体が横倒しになった。喉元にもう一太刀入れて息の根を止める。

 今回の獲物は草原地帯によくいる野良猪。何度か狩ったことがあるから味は保証済み。

「さて、もう一仕事ー」

 巨体から持ち運べる程度の肉塊を切り出し、ニケちゃんが待つ野営地に戻る。残ったお肉なんかは、置いておけばそこらへんの獣が食べていってくれる。たまにヒトが持っていく。

「ただいまー」

「うん」

 返事は天幕の中から。入り口を開けてみると、ニケちゃんは読書の真っ最中でした。

「本読んでたんだ」

「うん」

「今から夕飯作るから待っててね」

「うん」

 見事なまでの空返事。

 以前、この状態のニケちゃんを放置してご飯の仕度をしていたら、突然天幕が燃え出したことがあった。後で事情を訊ねたら『暗くなったから魔術で灯りを出した』ことが原因だったらしい。本を読みながらの行使だったため、火加減に失敗して天幕に引火したのだそう。とても物騒。

 もうすぐ陽も暮れるので、角灯に火を入れて灯りを用意しておく。最低限の明るさがあればニケちゃんは大人しく読書に勤しんでくれる。安心安全の為に予防は大事です。

 天幕の外でも焚き火を用意して調理開始。

「ふーんふふんふんふーん、ふーんふふんふんふーん」

 いつ聴いたかも覚えていない旋律を口ずさみながら、お肉の血抜きをしつつ焚き火を囲うように拵えた土台に鉄板を乗せて火にかける。

 調理油を温まった鉄板に垂らしたら、お肉をどーん。激しく音を立てるお肉を鉄板の上で切り分けて更に加熱していく。

 お肉がいい感じに焼けてきたら、次は出掛ける前から水に浸けてあった乾燥野菜を投入。火加減を調整しつつ、切り分けた麺麭ぱんを鉄板の隅で温める。

 野菜にも火が通ってきた辺りで、ニケちゃんが天幕から這い出てきた。

「ごはん」

 食欲旺盛なようで実に結構。ちなみにニケちゃんは肉食主義です。「緑は眺めるものであって食べるものではない」というのが持論なんだとか。まあ基本的にいい子なので、出されたものはなんでも食べるんですけどね。

 鉄板の上でお肉と野菜を二人分に分け、隣に並んで手を合わせた。

 いただきます。

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