孤立無縁

あれはそう、慈悲も容赦もない独裁者の如き師匠に放り捨てられてから半月ほど経った頃のこと。

まだ火付け番長ことニケちゃんとも出会っていない私こと白地桃は、とある雑貨屋でとある商品を眉間に皺を寄せて睨んでいた。

「そういえば残り少なかったなぁ……」

視線の先には手のひら大の箱。その中には先端に硝薬を塗った小枝のようなものが五十本ほど収められている。

燐寸まっちと名札の付いたそれは、硝薬の部分を箱の側面に塗られたザラザラした部分――赤燐というらしい――で擦ると火が付くという代物だ。

野宿をすることも多い生活を送る身としては常に携帯しておきたい品なのだけれど、消耗品にしては少々値が張る。例えるなら一箱分の料金で軽い朝ご飯が食べられるくらい。

……いや、まあ、私もそれなりに腕に自信はありますしですし。魔物を倒したり捕まえたりしてお金を貰ってますけど。…………直前に面白そうな玩具があったから買っちゃって、余裕がないのです。はい。自業自得です。ごめんなさい。

「どうしようかなー。買おうかなー。でもなー」

一応、火打石は常備してるから無理に買わなくてもいいのだけど、手間を考えるとやはり燐寸が欲しい。雨の日とか苦行だもん。

魔術を使える人なら自分で火を起こせるから考えるまでもないのだけど、残念ながら私は魔力というものとは無縁だし、そういう人と旅路を共に出来るような縁故もない。師匠は顔が広いみたいだったけど、紹介とかしてくれなかったんだよね。けちんぼー。

「うーん、仕方無いなー」

検討に検討を重ねた末に購入を決めて、棚に並んである箱の一つを掴んで店員さんの待つ勘定台に向かった。

ずっと悩んでいたのを見ていたのか、少し安くしてくれた。ありがとうございます。

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