第5話 王国尻戦、開幕!

 そして王国尻戦しりいくさ当日。

 晴天に恵まれた広場には、多くの国民が集まっていた。

 参加者と見物者である。

 そして王子であるエイシーには、会場全体が見渡せる高めの特等席が用意された。本当はギンカが出場している試合会場のすぐ横にいたいのだが、主催者がそれをやれば八百長が疑われる。ギンカに迷惑をかけたくなかった。


「王子。大勢の国民が集まりましたね」

「うむ。余の想定を越えておる」


 眼下に見えるのは、ひと・ヒト・人・hito。

 国民ほとんど来ているのではないか? と思えるほどの人の波であった。その大勢の観客を目当てに、多くの屋台まで出ている。尻戦に興味はなくても、その屋台目当てで来る人もいて、人の多さに拍車をかける。

 エイシーは軽い気持ちで企画をしたが、もはや国全体を巻き込んだ一大イベントと化していた。


「まぁ、国民が喜んでくれるなら、それでいいんじゃないかな?」

 本音を言えば、ギンカが喜んでほしいのだが。


「それでは王子。開幕の一言を」

「よし、分かった」

 スッと立ち上がり、大勢の国民の前に姿を見せる王子。

 姿だけは立派だった。

 姿だけは。

 じじ臭くても、町娘の尻を追っかけていても、そこは王子だった。情けない姿を国民には見せられない。


「民よ。よく集まってくれた。余は感動している。今日はみんな楽しんでいってくれたまえ」

 エイシーは大きく息を吸い込んだ。

「これより、王国尻戦を開催する!!」

 そう宣言すると、国中に響くかという歓声が沸き上がった。




 かくして、開かれた王国尻戦。どのような試合形式で優勝者を決めるか悩んだが、参加者が多かったためトーナメント戦になった。勝てば次の試合に進め、負ければ終わり。実にシンプルなルールだ。


 ギンカは圧倒的強さでトーナメントを勝ち抜いていった。毎試合、相手が瞬殺されている。

 これには、エイシーも安心して見ていられる。


「王子の追いかけている町娘、かなりお強いですな」

 エイシーのそばにいたロータルが話しかける。

「余は分かっておったぞ」


 エイシーとギンカが初めて逢った時、エイシーが台に乗ったギンカのお尻にぶつかったが、ギンカが台から落ちることはなかった。常連客も言っていたが、バランス感覚に優れているのだろう。そのバランス感覚が、ギンカの圧倒的強さを生み出している。


「きっと、ギンカが優勝じゃな」

「それはどうですかな? 王子はまだまだですな」

「ん? それはどういうことじゃ?」

 ギンカ以外の試合を見てみるが、特に強そうな人はいない。

 エイシーの目にはどう見ても、ギンカが優勝としか思えなかったのである。

「いや、やはりギンカの優勝で間違いない」

「王子。戦局の流れは全体を見ないとわかりません。王子は一部しか見ていません。私は決勝後の準備がありますので、これで」

 そう言うとロータルは頭を下げ、去って行った。

「余は全体を見ているつもりじゃぞ」


 わぁっ!


 会場から突如歓声が沸き上がった。

 見ると、


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 とギンカが歓声の中心にある台の上で拳を突き上げ、叫んでいた。この喚声の中でも、よく通る声だ。

 今のは準決勝だったはず。

 つまり、ギンカは決勝まで進んだのだ。

 あと一勝すれば、優勝である。

 やはりギンカの尻は素晴らしい。


「……残りが決勝ということは、そばで見てもギンカに肩入れしているとは思われないということじゃな?」


 ギンカの優勝を確信しているエイシーは、軽い足取りで決勝戦会場へと向かった。

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