第4話 タイトでキュートなヒップが

「なんでじゃああああああ!!」

 店内にエイシーの叫び声が響く。

 ギンカの為に練り上げた作戦が、脆くも崩れ去った瞬間だった。


「だって、参加する理由がないし」

「……」

 それを言われたらおしまいである。

 だが、万が一を考えて用意していたプランがある。


「優勝商品があるぞ?」

「なに?」

 ギンカが食いついてきた。これはいける。

「望みを叶えてやろう。『国をくれ!』とかは無理じゃが、余が出来る範囲のことなら、なんでも叶えてやるぞ? 余と結婚したい、とか。余と結婚したい、とか。あとは余と結婚したい、とかだな」

「なんでも、ねぇ……」

 ギンカは考え始めた。

 これは……脈ありか?


 しばらく考えたギンカは、

「――分かった。参加するよ」

 と返事した。

「ホントか! そんなに余と結婚がしたかったのか!」

「全然? だって、それで『この変態王子がつきまといませんように』と言えば、来なくなるんでしょ?」

「……ぇえー」

 まさかの理由にエイシーは全身の力が抜けた。声も小さくなってしまう。


「出るからには、優勝するよ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ぅぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

 盛り上がる店内とは真逆に、盛り下がるエイシーであった。




 こうして、国中で王国尻戦しりいくさの告知がされた。

 参加者は予想に反して多かった。優勝賞品の魅力が大きかったのだろう。

 ギンカの為に企画した大会だったが、エイシーの想定よりも大きな大会になってしまった。


(まぁ、盛り上がった方が面白いだろうから、これはこれでいいんじゃないかな?)


 エイシーは、そう思うことにした。


 ギンカも気合い入っているようで、仕事中も尻を振って特訓している。

「王子、ありがとう!」

 なぜか常連客にお礼を言われた。


「あの尻、ぶつけられたい」

 別の常連客がつぶやいていた。

 その気持ち、理解出来る。


「あれだけ尻振って普通に出来るんだから、ギンカちゃんってバランス感覚いいのでは? 優勝ありえるな……」

 また、別の常連客が考察していた。


 元々ギンカに優勝してもらいたくて、企画したイベント。優勝してもらわないと困る。

 優勝した暁には、余と結婚を……。


 そんなギンカを見ていると、目が合った。

「な、なによ……」

 振っていたお尻を止め、ちょっと頬を赤くしているギンカ。

 そんなギンカもかわいく思える。


「なぁに。最初は嫌がっていたギンカも、ずいぶんと乗り気だなと思ってな。身体は正直だのう」

「優勝したらあんたの顔を見なくて済むと思えば、やる気が出るってモンよ」

「余が来なくなって、寂しくて泣いても知らんぞ?」

「べつに……さびしくとかないから」

「どうだか」

「あ、でもさびしくなるかも……」

「やっぱり。余に惚れたか?」

 一瞬喜んだが、

「ううん。売上が下がるから」

 そんな理由だった。

 現金なヤツじゃ。


「――もし余が来なくなったら、ギンカの料理を城に配達してくれないか?」

「いいけど、配達料取るよ?」

「いいぞ。それぐらいは払う」

「あー、でも私は店を離れられないから、近所の乳母うばやってた人に頼もっかな。手が空いてるって言ってたし」

「乳母イーツ……近代的なサービスじゃな」

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